表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/45

32話 妹に婚約者ができるらしい

校門の外、直哉と別れた章は、待ち合わせ場所の影に立つ忍を見つけた。


しかし、その姿は一人ではなかった。


「……忍、考えてくれたかい?」


男の低く、傲慢な声が響く。


Sランククラスの制服を乱れなく着こなした男——王城おうじょうが、忍の肩を抱くようにして距離を詰めていた。


「何をですか? 王城さん」


「僕の婚約者になることさ」


「……はぁ」


「君はSランクの中でも、僕と特に相性がいい。昨日の実技の時にもそう思ったんだ」


忍は表情を変えず、淡々と対応しているが、その瞳の奥は氷のように冷え切っている。


「忍? ……終わったぞ」


俺は二人の不穏な空気を察し、割って入るように声をかけた。忍の顔がぱっと輝く。


「あっ、兄さん!」


忍が俺の元へ駆け寄ろうとした瞬間——ガシッ。


王城の腕が、忍の細い二の腕を強く掴み、引き留めた。


「えっ……?」


忍が戸惑いの声を漏らす。俺は眉をひそめ、王城を睨みつけた。


「……あの、離してくれませんか?」


「はは、君は僕と話しているのに、他の男性の方にばかり気を取られているんだね?」


王城は俺をゴミを見るような目で見下ろすと、わざとらしくため息をついた。


「どうかな、返事を聞かせてほしいな。……まぁ、君に拒否権なんてないけどね?」


「…………っ」


忍が言葉を詰まらせる。その瞳に、一瞬だけ神の如き冷酷な光が宿ったのを、俺は見逃さなかった。


「忍? ……帰るぞ」


俺は王城の腕を強引に振り解き、忍の手を引こうとした。


しかし、王城は冷ややかな笑みを浮かべたまま、俺の胸元を軽く——しかし、常人にはあり得ない力で突き飛ばした。


「ぐっ……!?」


俺の身体は無様に地面を転がり、背中からアスファルトに叩きつけられる。


息が止まるほどの衝撃。


「君は魔力すら纏っていないのかい? それでよくも忍の側にいられるね」


「兄さんっ……! 王城さん! ……離してください!」


忍が俺を庇うように声を上げるが、王城は忍を支配する優越感に浸りながら囁いた。


「ふむ……僕と付き合ってくれるかな? そうすれば、君のその弱い兄も、僕の力で守ってあげようか?」


忍の肩が、微かに震える。怒りか、それとも——。


「おい……そこまでにしておけ」


その時、頭上から鋭い声が降ってきた。


「先生!」


振り返れば、そこには担任の教師が立っていた。強面のその男が、今は鋭い眼光で王城を射抜いている。


「……お前、Sクラスの王城だろう。うちのクラスの生徒をいじめるな?」


「……ただの指導ですよ。才能のない者が分相応な場所にいると、本人も辛いでしょう?」


王城は平然と笑い、忍の方を向いてウィンクした。


「じゃあね、忍。返事は明日でいいからね?」


彼は余裕綽々と立ち去っていく。俺は地面に手をつき、歯を食いしばりながら立ち上がった。


「西条気をつけて帰れよ?……」


「先生……ありがとうございました」


忍が俺に駆け寄り、震える手で俺の服を整える。俺はただ、無力な自分の拳を握りしめるしかなかった。


「……兄さん、大丈夫ですか?」


「……ああ。なんでもない」


忍の表情は、先ほどまでの「可憐な妹」のままだった。


だが、彼女の視線の先——王城が去った闇の奥には、彼を焼き尽くさんばかりの殺意が静かに燃えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ