3話 私の言うことが、聞けませんか?
「先生!」
倒れた少女を横目に、直哉が元気よく手を挙げた。
「なんだ?」
「俺たち、もうダンジョンに潜りに行ってもいいですか?」
「……構わん。だが、行くなら初心者用(F級)の指定エリアだけにしろ。死んでも自己責任だ」
「はいっ! 分かってます!……よし、おい西条、行くぞ!」
「おう」
教官の冷たい言葉を背に、俺と直哉は教室を後にした。
校舎からダンジョンへ通じるゲートへの移動中、背後から聞き覚えのある愛くるしい声が響いた。
「兄さんっ!」
振り向くと、薄桃色の髪をなびかせた忍が、息を切らせて駆け寄ってくるところだった。
「あ、忍」
「兄さん、どこに行くのですか? まだ学校の授業時間中ですよね……?」
「俺たちのクラスはもう自由なんだよ」
「えっ……!? Sランククラスでは、今まさに座学と魔力操作の授業中ですよ……?」
「そうなのか? Sランクは大変だな」
「やっぱりSランクはすごいんだなー……」
俺と直哉が感心していると、忍は不安そうに俺の制服の袖をキュッと固く握りしめてきた。
「あの……兄さん、お願いです。どこにも行かないでくれませんか……?」
「おい西条、何してんだ?……って、おいそれ誰だよ! めっちゃ美少女じゃん!」
直哉が目を見開き、パッと顔を輝かせて忍の前へ踏み出した。
「こいつは俺の——」
「初めまして、お嬢さん! 葛西直哉と申します! 以後、お見知りおきを!」
キザに手を差し出す直哉だったが、忍は彼を視界にすら入れず、冷ややかな瞳で俺だけを見つめ続けている。
「……兄さん! どうしても行くなら、放課後まで待ってください! 私も一緒に行きますから……!」
「え、妹さん? 大丈夫だって! 初心者用ダンジョンなんだから、俺たちだけでも余裕余裕!」
能天気に笑う直哉の言葉に、忍の雰囲気が一変した。
「……兄さん。私の言うことが、聞けませんか……?」
ゾクリと背筋に冷たいものが走る。だが、俺にはあいつらを倒すために一刻も早く強くなる必要がある。
「悪いな、忍。先に行ってる」
「兄さん……ッ! まっ——」
忍が言葉を言い切るより早く、校内に虚しくチャイムの音が鳴り響いた。
キーンコーンカーンコーン——
「あ、やべっ! 授業開始のチャイムだ! おい妹ちゃん、早く戻らないと先生に怒られるぞー! じゃあな!」
直哉に背中を押され、俺たちは立ち止まる忍を置いて歩き出した。




