27話 姿は消せても、血は消せない
「……不思議ですわね。何も来ませんわ?」
静まり返るドーム状の部屋を見回しながら、舞香が不思議そうに首をかしげた。
「ここのボスは『ステルス・オーク』……姿を消す特殊なオークらしいが」
「西条、本当かそれ!?」
「ああ。だが……静かすぎるな」
気配を探りながら慎重に間合いを詰める。舞香はふっと息を抜き、ドヤ顔を浮かべた。
「なんだか拍子抜けですわね? これなら簡単に——」
ドスッ……!!
「……がはっ!?」
「「!?!?」」
何もない空間から突如現れた巨大な透明の刃が、舞香の胸元を容赦なく貫いた。
舞香の身体が宙に浮き、激しい血飛沫とともに床へ叩きつけられる。
「王城ーーーッ!!」
「か、ヒュー……か、ヒュー……ッ!」
右胸を深く刺され、肺が潰れた舞香が血を吐きながら痙攣する。直哉が取り乱して駆け寄ろうとした瞬間、俺は叫んだ。
「直哉! 迂闊に近づくな! どこに潜んでるか分からない!」
「くそっ……! そうだな……っ!」
気配を消したボスが、次の一撃を狙って潜んでいる。その時、俺の視界の端がかすかな違和感を捉えた。
空中の一点から、赤い雫がポタリと床に落ちたのだ。舞香を刺した際の血だ。
「直哉! 右から来てる!」
「なっ……!? うわっと!?」
俺の声に反応して直哉が咄嗟に槍でガードを掲げる。直後、ガキィィンッ!と空間が歪み、凄まじい衝撃波が直哉を吹き飛ばした。
「くっ……! 西条! どうして分かった!?」
「姿は消えても、王城の血が付着してる! 血が落ちてる場所を見ろ!」
「なるほど……! 西条、頼む、俺が時間を稼ぐ! その隙に王城を頼めるか!?」
「おう!」
直哉が槍を激しく振り回し、見えないボスを牽制する。
「よし! 今だッ!」
直哉がボスの注意を引きつけた一瞬の隙を突き、俺は床に倒れる舞香のもとへ低空で滑り込んだ。
「王城! しっかりしろ!」
舞香の顔色は土気色で、口をパクパクとさせながら必死に空気を求めようとしているが、右肺が潰れて呼吸が上手くできていない。
「ほら、これ飲め! 高級ポーションだ!」
俺はボトルのキャップを歯でこじ開け、彼女の口元へ一気に流し込んだ。
ジュウウウッ……!
緑色の薬液が体内へ染み渡ると同時に、光が舞香の傷口を包み込む。
破れた肉と骨が凄まじい勢いで再生し、潰れていた右肺が瞬く間に元の形を取り戻していった。
「ゲボッ! ビシャッ!……ハァ、ハァ、ハァ……ッ!!」
舞香は血を吐き出しながら荒い息を吐き、狂ったように自分の胸を確かめた。
「し、死ぬかと思いましたわ……っ! 本気で……命が消えるかと……っ!」
「そうだな……。俺は直哉の援護に回る。王城、もし……動けるなら頼む。一回死にかけたんだ、怖いと思うが……」
恐怖で全身を激しく震わせる舞香の肩を叩き、俺は言葉を投げかけた。舞香は溢れそうになる涙を必死に堪え、青ざめた唇を噛みしめて強く頷いた。
「は、はい……っ! 負けませんわ……ッ!」




