24話 必ず、生きて帰ること
翌朝のHR。
教官は黒板前に立ち、相変わらずだるそうに煙草の煙を吐き出した。
「さてお前たち、誰でもいいぞ? 昨日の答えが分かった奴」
教室に沈黙が流れる中、一人の生徒が勢いよく手を挙げた。
「はい! 『ダンジョンに潜らないこと』です!」
「お、おう……不正解だ。……まあ、一般人としては満点の正解だがな。お前たち、一応これでも冒険者を目指してるんだろ?」
教官は呆れたように息を吐き、再びクラス全体を見回す。
「他にはいないのか?」
俺は静かに手を挙げた。
「はい」
「ん、そこのお前。西条か。言ってみろ」
「……必ず、生きて帰ることです」
俺の言葉が響いた瞬間、教室から失笑が漏れ聞こえた。
教官の反応を伺う。だが、教官は手にしていた指し棒で、淡々と教壇を叩いた。
トントン。
「……正解だ。今笑った奴ら、後で別室な。たっぷり絞ってやる」
一瞬で教室が静まり返った。笑っていた生徒たちの顔から一気に血の気が引いていく。
「さて……西条。なぜそれが正解なのか、説明できるか?」
「はい。無事に帰還することを最優先に考えれば、撤退の判断を見誤らず、極度の疲労状態での無謀な戦闘を避けられます。そして何より……どんなに強くなろうと、死んでしまっては全て意味がないからです」
昨日、忍が言っていた言葉。そして10年前、目の前で全てを失った俺自身の痛烈な実感。
教官は煙草を指で挟み、満足そうに口端を上げた。
「……正解だ。地位や名誉、一獲千金なんてものは生きて帰った後の話だ。まずは何よりも『生きて帰る』ことに徹底的に執着しろ。ダンジョンじゃな、『あと少し行ける』っていうその甘い欲が、簡単に命を失わせるんだからな」
教官の鋭い視線に、今度こそクラス全員が背筋を伸ばし、深く頷いた。




