23話 なら最初から素直に言えよ
「ふぅ……ちょっと神力を使いすぎましたね……」
夜の住宅街。
陽向を脅迫し終えた忍は、ほっと息を漏らした。
連続で遠隔操作を行い、記憶の綻びを抑え込んだ反動で急激な目眩が襲う。
「おっとと……っ」
視界が歪み、忍が千鳥足でバランスを崩した——その時。
ガシッ。
「おっと……忍、大丈夫か?」
忍の華奢な身体を、温かく強い腕がしっかりと抱きとめた。
「あ……兄さん……ッ!?」
目の前には、心配そうに自分を覗き込む章の顔があった。
「ありがとうございます、兄さん……!」
忍は胸を軽く躍らせながら、章の胸元にそっと顔を埋めた。章は彼女の身体を起こしながら、不審そうに尋ねる。
「こんな時間に、どこに行っていたんだ?」
「あ……ふふ、少し用事で。女の子の秘密ですよ?」
「そうか。まあ、夜道は危ないから探したぞ?」
章は追求することなく、妹の手を引いて玄関を開けた。
家に入り、風呂を済ませてパジャマに着替えた後。章の部屋のドアがゆっくりと開き、忍が枕をぎゅっと抱きかかえて入ってきた。
「兄さん……あの、今日も一緒に寝てくれませんか……?」
「ん? もう毎日潜り込んできてるんだから、わざわざ毎回聞かなくていいぞ?」
ベッドで横になっていた章が呆れたように言うと、忍は少し顔を赤らめて小さく首を振った。
「ふふ、ダメですよ〜? 兄さんにだって、一人で静かに寝たい夜もあると思いますし……その、兄さんも一人の男の子ですし……ね?」
妹として、そして一人の女子として気を遣うような振りをして、上目遣いに伺ってくる忍。
そんな彼女の態度に、章は少し意地悪な笑みを浮かべた。
「はぁ、そうだな……。じゃあ今日から一緒に寝るの、やめるか?」
「待ってくださいッ!! 一緒に寝ます! 絶対に一緒に寝ますからっ!」
焦ってベッドへ飛び込んできた忍は、そのまま章の掛け布団の中に滑り込み、逃がさないと言わんばかりに抱きついてきた。
「そうか。なら最初から素直に言えよ」
「うぅ……はい……」
章の腕の中で、忍は「作戦失敗」とばかりに頬を膨らませた。
(……ふふ。やっぱり兄さんは、私がこうやって抱きしめていないとダメですね)
胸元に顔を寄せる忍の瞳には、先ほどまでの冷酷な神の面影など無く、ただ大好きな『兄』の腕の中で心満たされる乙女の光だけが宿っていた。




