22話 可哀想な子
「さて……どうしますか?」
忍は闇の混じる瞳で陽向を見つめ、静かに問いかけた。
「……後輩くんに、真実を告げるから」
陽向は震える声で、しかし強い意志を込めて言い放つ。
だが、忍の反応は冷ややかそのものだった。
「……私が、それを許すとでも?」
「っ……!」
忍の周囲の空間が微かに歪み、絶対的な圧力が陽向の全身を押し潰す。
「ふふ……でも、こうしましょう? 神同士、殺し合うのは嫌ですからね?」
忍の口から出た言葉に、夜の空気が凍りついた。
「……! 忍ちゃん、貴方……」
「私から『二つの条件』をあげます。一つ目、これからも兄さんを守ってくれますか? ……そして二つ目、もう二度と、兄さんの記憶の核心には触れないこと」
「それは……っ!」
陽向は唇を噛みしめる。
「もし条件を呑むなら……私は代わりに、貴方の周りの人間を『殺さない』であげますね?」
「っ……! 卑怯です……っ!」
「これはお願いではなく、命令ですよ?」
忍はゆっくりと歩み寄り、陽向の耳元で甘く毒を含んだ声で囁いた。
「いいですか……? 忘れたのですか? 私はいつでも……貴方の身体を遠隔操作して、貴方自身の手で大切な人たちを殺させることだってできるんですよ?」
「それは……っ……やめて……っ!」
自らの手で周囲の人間を奪われる光景を想像し、陽向の顔から血の気が引いていく。
冷や汗が頬を伝い、膝ががくがくと震えた。
「……どうしますか? 陽向先輩」
「……分かった……分かりましたから……っ!」
屈辱と悔しさに耐えかね、陽向はぎゅっと拳を握りしめながら頷いた。
「はい! ありがとうございます♪」
忍はパッといつもの可憐な笑顔に戻ると、満足そうに手を叩いた。
そして、うつむく陽向を冷めた瞳で見下ろす。
陽向はゆっくりと顔を上げた。
「……可哀想な子」
陽向が、弱々しく呟いた。
「……」
忍は最後に美しい笑みを残すと、夜の闇に溶け込むように姿を消した。
静まり返った公園に残された陽向は、その場に膝をつき、絞り出すように呟いた。
「……ごめんね、後輩くん……。私じゃ……あの子を止められない……」




