19話 俺に、妹なんていたっけ?
「西条、悪い! 今日ちょっと急用が入っちゃってさ……!」
「私も今日は色々と忙しいの! 本当にごめんなさいね!」
放課後、直哉と舞香は申し訳なさそうに頭を下げると、バタバタと帰っていった。
「……おう」
一人残された俺は、自分の手帳を開く。両親を殺した魔物の情報と、ダンジョンで生き残るためのメモ。
(復讐はしたい。……だが、一人で挑むのはリスクが高すぎる。今日は潜らず、おとなしく帰るか)
「楽して生きて帰る」という自分のスタイルを再確認して校門へ向かおうとした——その時。
ガバッ!!
「後輩く〜ん! ぎゅ〜っ!」
「……ッ!? ちょ、先輩、やめてください!」
背後から勢いよく飛びついてきたのは陽向先輩だった。
背中に伝わる柔らかい感触と甘い匂いに、俺は顔を真っ赤にして引き剥がそうとする。
「ほむほむ、なるほどね〜……」
「……? 何がですか?」
「ねっ! デートしよ〜?」
「はぁ!?」
強引に腕を引かれ、俺はそのまま駅前のショッピングモールへと連行された。
何が何だか分からないまま服屋に連れ込まれ、陽向先輩はフィッティングルームのカーテンを突然バッと開けた。
「これ、似合ってる〜?」
「っ!? あの、下着姿なんてあまり異性に見せるべきでは……っ!」
思わず目元を片手で覆う俺に、陽向先輩はからかうように距離を詰めてくる。
「似合ってるの〜? ないの〜?」
「に、似合ってますから! お願いですから近づかないでください!」
「は〜い♪」
その後、解放された俺たちは近くの落ち着いた喫茶店に入った。
アイスコーヒーをすする俺の前に、陽向先輩が身を乗り出して真剣な目を向けてくる。
さっきまでのふざけた笑顔が消えた。
「ねぇ……? 後輩くん」
「はい」
「妹ちゃんって……『いつから』いるの〜?」
「……? ずっと一緒ですよ。幼い頃から」
「おかしくない〜?」
「何がですか?」
「だって、忍ちゃん……後輩くんと『同学年』でしょ~?」
「……?」
そう言えば、そうだ。忍はSランククラスの『新入生』だ。俺もDランククラスの『新入生』だ。
(……いや、待て。俺は九月生まれだ。年子なら同学年になることだって、あり得る……よな?)
おかしくはない。
そのはずなのに——なぜだ?
胸の奥に、小さな棘が引っかかったような違和感が残る。
「あれ……? そう言えば……」
「うんうん! 思い出して〜? 章くん、本当に……『最初から妹ちゃん』いた〜?」
「あれ……? 忍は……お袋が産んだ……俺の、妹……だよな……?」
頭の奥で、カチリと何かの歯車が狂う音がした。
10年前の事件の記憶。血の匂い。両親の悲鳴。そして、その横に——『妹』なんて、最初から居ただろうか?
「あれ……? 俺は、一人っ子……じゃ……?」
俺が記憶の底にある致命的な『矛盾』に気づきかけたその瞬間、喫茶店のグラスの水面が、不気味にゆらりと揺れた。




