17話 冒険者に一番大切なもの
「お前たち、学園の雰囲気にはだいぶ慣れたか?」
翌朝のHR。
教壇に立った教官は、いつも通り煙草の煙を吐き出しながら、冷ややかな視線でクラス全体を見渡した。
生徒たちが一斉に頷く。昨日より教官の目の周りには濃い隈が刻まれており、どこか疲れ切った雰囲気を漂わせていた。
「よし。なら、今日は座学の勉強を始めるぞ。……お前たち、冒険者にとって『最も重要なこと』が何だか分かるか?」
教官の問いかけに、真っ先に手を挙げたのは最前列の男子生徒だった。
「はい! とにかく圧倒的に『強くなること』ですか!?」
「そうだな。強さは生存率に直結する。だが……一番ではない。違う」
続いて、別の女子生徒が勢いよく発言する。
「高ランクの強力な武器とか、頑丈な防具を揃えることですか!?」
「それもかなり合ってる。だが、一番違う」
「他には? ないか?」
教官は淡々と問いを投げかけるが、教室は静まり返った。
生徒たちは顔を見合わせ、「じゃあ何なんだ?」と困惑の表情を浮かべて黙り込む。
——シーン。
静寂が教室を支配した。教官は短くなった煙草を灰皿に揉み消すと、深いため息をつき、冷徹な一言を放った。
「そうか。……なら、お前たち全員、冒険者を辞めろ」
「「「えっ!!?」」」
教室中に悲鳴のような声が響き渡った。生徒たちが一斉に立ち上がり、教官に詰め寄る。
「ど、どうしてですか!?」
「俺はダンジョンで一獲千金を目指してここに入ったんだ! こんなところで辞めさせられてたまるかよ!!」
教官は騒ぐ生徒たちを一切意に介さず、教科書をパタンと閉じた。
「今日の授業はここまでだ。明日までにその答えが分からなかった奴は、本当に全員退学手続きをとる。……以上だ」
言うだけ言って、教官は引き戸をバンと音を立てて閉め、教室を出て行ってしまった。
残された生徒たちがパニックに陥り、「答えってなんだよ!?」「教官の本気か!?」と騒ぎ立てる中、直哉が頭を抱えながら俺の席に身を乗り出してきた。
「なぁ、西条……お前、今の答え分かるか?」
「さぁな……」
俺は窓の外を眺めながら、短く答えた。
(冒険者に最も重要なこと……か)
パニックになる周囲をよそに、俺は自分の胸に手を当て、10年前のあの惨劇——生き残る術もなく、ただ両親が食い殺されるのを目の前で見ていることしかできなかったあの日を静かに思い返していた。




