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133話 昼休みのすれ違いと、神の囁き

昼休みのチャイムが鳴り響き、ざわめく教室


いつもならチャイムとほぼ同時に弁当箱を届けに来るはずの忍が、待てど暮らせどやって来ない。


(どうしたんだ……何かあったのか?)


胸に湧き上がる言い知れぬ不安に急かされ、俺は席を立つと、Sクラスの教室へと向かった。


扉の隙間から教室の中を覗き込む。


制服を着た生徒たちが談笑しているが、目当ての妹の姿はどこにも見当たらない。


「忍のやつ、いないみたいだな……」


すれ違いになったかと思い、諦めて踵を返そうとした、その時だった。


「あら? ふふ……奇遇ですね? またお会いできるなんて」


背後から掛けられた、鈴を転がすような透き通った声。


振り返ると、そこに立っていたのは息を呑むほど美しい少女だった。透き通るような白い肌に、淡く輝くプラチナブロンドの髪。


「……あれ?」

どこかで見た顔だ。


思わず瞬きを繰り返す俺を見て、少女は胸元に手を当て、少し困ったように眉尻を下げてみせた。


"Oh, it seems you do not remember me. How truly sorrowful... even though it was God's very guidance that brought us together."


(「ふふ、どうやら覚えていらっしゃらないようですね? 悲しいことです……せっかくの神の導きでしたのに」)


流れるような美しい異国の響き。


その独特のイントネーションと香水のような甘い気配に、俺の記憶の引き出しがカチリと音を立てて噛み合った。


「……あの、春休みに街角でぶつかった……?」



「はい! 思い出してくれましたか? ふふ、きっと貴方にはとても素晴らしい神様がついているのですね」


花が咲くように柔らかく微笑む彼女。


だが、その瞳の奥の光はどこか底知れず、見つめられているだけで背筋が粟立つような錯覚を覚える。


「それより……誰かをお探しですか?」


「あ、ああ……妹を探してて」


「妹さん、ですか?」


「悪い、西条忍って言うんだ。このクラスのはずなんだけど……」


俺が名前を口にした瞬間、少女の瞳が一瞬だけ細まり、妖しい色を宿した。


「そうでしたか。忍さんでしたら、先ほど保健室へ行かれましたよ?」


保健室

その言葉を聞いた途端、嫌な想像が頭をよぎった。


「な……何があったんだ!?」


思わず身を乗り出し、少女の両肩をガシッと掴んでしまう。


「ふふっ……痛いですよ? あまり強く肩を掴まないでくださいな。……ですが、殿方にこのように激しく求められると、胸がたぎってしまいますね?」


至近距離から熱っぽい上目遣いで囁かれ、背中にゾクリとした悪寒が走る。


俺はハッと我に返り、慌てて手を引っ込めた。


「ッッッ……す、すまない! 焦って……」


「ふふ、いいのですよ。……お腹が痛いのだと仰っていました。手合わせの最中に急に」


「そうか……腹痛か。教えてくれてありがとう!」


大怪我ではないと知り、ほっと安堵の息を吐きながら俺は頭を下げた。


一刻も早く様子を見に行こうと、保健室へ向けて駆け出そうとする。


背後から、穏やかで甘い声が風のように追いかけてきた。


「ええ、お気をつけて。……神の導きのままに」


階段を駆け下りる俺のポケットの中で、忍から渡されていたあのお守りが、まるで警戒のアラームを鳴らすかのように、かすかな熱を帯びて脈打っていた。



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