132話 男たちの阿鼻叫喚と、目の前の乙女心
一方、その頃
2年生の教室へと続く廊下で、俺は背後から猛烈な勢いで迫る足音に振り返った。
「西条ォォォッッ!!」
「うおっ、なんだ? 葛西、久しぶりだな」
春休みの実家の手伝いを終え、一段と日焼けした葛西が肩で息をしながら俺の両肩を激しく揺さぶってきた。
「おう、久しぶり……って、そうじゃねぇよ!! 挨拶してる場合じゃねぇんだよ西条!!」
「どうした?落ち着け」
「今朝、特待Sクラスにとんでもねぇ海外からの美少女転校生が来たって噂、もう全校に広まってんぞ!!」
「……」
思わず数日前、街角でぶつかったあのプラチナブロンドの異国の女性の顔が脳裏をよぎる。まさかとは思うが、あの人が転校生……?
そんな俺の胸騒ぎを余所に、葛西は廊下の天井を仰ぎ、魂の底から絶叫した。
「なんでSクラスなんだよぉぉぉッ!? なんで俺たちのこの平凡な普通クラスじゃないんだよ! 不公平だろ、神様よぉぉぉッ!!」
「……ここに、いるではありませんか?」
葛西の嘆きに割り込むように、すぐ真横から冷ややかな、けれどどこか拗ねたような声が落ちてきた。
振り返ると、腰に手を当ててジト目を向けるクラスメイト——舞香が立っていた。
だが、葛西の耳には届かない。
「はぁ? どこにいるんだよ! どこ見渡してもむさ苦しい野郎ばっかりじゃねぇか!」
「——ゲシッ!!」
「ぎゃんッッッ!? な、何すんだよ舞香ぁぁぁ!?」
寸分の狂いもなく葛西の弁慶の泣き所をローキックで撃ち抜いた舞香は、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「全く! もう、バカ葛西さんは、一生黙っててください!」
足音を荒立ててスタスタと教室へ消えていく舞香の後ろ姿を、葛西は涙目でスネを押さえながら見送った。
「な、なんだよあいつ……! いきなり蹴飛ばしてきて、何怒ってんだよ!?」
「……さぁな?」
俺は苦笑交じりに肩をすくめた。
男心の鈍感さと、乙女心の難しさは世界共通らしい。




