129話 イタリアからの転校生と、ポンペイの灰
休み時間に入った瞬間、アリエッタの席の周りには人だかりができていた。
男子も女子も、物珍しさとその並外れた美貌に惹かれ、我先にと声をかけていた。
「アリエッタさん!」
「はい、何でしょうか?」
アリエッタは両手を膝の上で揃え、絵画のような完璧な微笑みで応じる。
「どこから来たの?」
「イタリアですね」
「ほへ〜! 忍ちゃん、イタリアだって!」
隣の席の忍の肩をポンポンと叩いたのは、クラスメイトの今泉だった。
忍は眉をピクリと動かし、冷淡な視線を向ける。
「……今泉さん、静かに」
「どうして? あっ! もしかして聞き漏らさないように集中してるんだ!?」
「はぁ……」
呆れ果ててため息をつく忍の横顔を、アリエッタは楽しそうに覗き込んだ。
「忍は、お友達が多くて大変なんですね?」
「……下の名前で気安く呼ばないでいただけますか?」
ピシャリと撥ね付ける忍。
周囲の空気が一瞬凍りつきかけるが、アリエッタは鈴を転がすようにくすりと笑った。
「これは手厳しいですね。ですが、クラスの皆さん全員がそう呼んでいるようですので……私だけ特別扱いというわけにもいきません。無理ですね、ふふ」
「…………」
忍の瞳の奥で、どろりとした黒い殺気が蠢く。
それに気づかない生徒たちが、無邪気にアリエッタへ身を乗り出した。
「アリエッタさん! イタリアのこと、もっとお話し聞かせて!」
「ええ、そうですね……では、ポンペイはご存知ですか?」
「ポンペイ?」
「ええ。遥か昔、街の多くの方々が火山の灰に飲み込まれた場所です」
「えっ、そ、それでどうなったの……?」
不吉な話題に身を縮こまらせる女子生徒へ、アリエッタは歌うような穏やかさで、事も無げに言い放った。
「皆さん、死にました」
「そ、そっ……そうなんだ……」
あまりにも淡々とした宣告に、教室がシンと静まり返る。
だがアリエッタは陶酔するように目を細め、自らの細い指先を頬に当てた。
「ですが、とても綺麗に残っているのですよ? 息絶える間際、必死に私へ祈りを捧げてくださったあの人たちの歪んだ顔……今思い出しても、胸が熱くなります」
「ほ、ほへ〜……?」
何かの例え話だと思ったのか、今泉が引きつった笑いを浮かべて首を傾げる。
アリエッタはふっとその妖しい笑みを引っ込め、上品に小首を傾げてみせた。
「さて、観光地としては少々刺激が強すぎますね。良い名所を紹介できず申し訳ありません。よしなに」
「は、はっ……はい!」
アリエッタの異様な迫力に当てられたクラスメイトたちが、ぎこちなく頷いて引き下がっていく。
誰もいなくなった二人の空間で、忍は机の下で拳を硬く握りしめ、隣をじっと睨み据えていた。




