127話 奥座敷の密談
ピシャリと閉ざされた襖の向こう。
日差しの入らない薄暗い和室で、忍は先ほどまでの笑顔を完全に削ぎ落とし、冷徹な双眸で陽向を見据えた。
「陽向先輩?」
「なに〜? 忍ちゃん、こわぁいお顔してる〜」
畳の上にへたり込み、無邪気に首を傾げる陽向。
壊れ、再構築されたその頭脳に向けて、忍は声音を低く落として問い詰めた。
「……わかりますよね?」
「う〜ん……他の神様が、後輩くんを狙ってるのぉ?」
「私はそう見ています。兄さんの魔力は、とてつもないですからね。放っておけば、飢えた外敵がいくらでも群がってくる」
「うん! 後輩くんの魔力、すっごく美味しいもんねぇ〜? じゅわぁって甘くて、あったかいよ〜?」
恍惚とした笑みを浮かべている陽向。
その浅ましい姿に、忍は眉間を指先で押さえながら深いため息を吐き出した。
「……はぁ。本当に話が通じない……。いいですか、陽向先輩。貴方には、兄さんの中に『隠れて』いてもらえますか?」
「えっ? いいよ〜? ……でも、本当にいいのぉ〜? 忍ちゃん、いっつも後輩くんに近づいたら怒るのに〜」
意外そうな顔をして目を丸くする陽向に、忍は忌々しそうに唇を噛み締めた。
自分の宝物の内側に別の女を滑り込ませるなど、万死に値する屈辱。
けれど、外敵から兄を守るためには、手段を選んでいる場合ではなかった。
「今回だけは特別ですから! 調子に乗らないでください」
「うん、わかってるよ〜! えへへ、後輩くんの中で、美味しいの食べ放題だぁ……♪」
嬉しそうに身体を揺らす陽向の肩を、忍は念を押すように強く掴んだ。
「その代わり……もしも兄さんに危険が迫ったら、ためらわずに兄さんへ魔力を渡してくださいね? 貴方が吸い溜めた力、すべてをです」
「うん! まかせて〜♪」
台所でケーキを冷やしている兄が、自らの肉体に何が潜り込むかも知らぬままに。




