おまけ:十年の約束と、白い雪
高校進学のためにあの寒村を離れてから、ちょうど十年が経った。
大学を卒業し、ようやく生活の基盤を整えた俺は、かつて置き去りにしてしまった幼馴染の元へと向かっていた。
電車の窓を流れる景色が、徐々に懐かしい銀世界へと変わっていく。
(ようやく、あいつに会いに行ける……)
記憶を頼りに辿り着いた神社の境内で、俺は静かに雪を眺めていた白い背中を見つけた。
十年前と変わらない、透き通るような銀色の髪。
「……雪名」
名を呼ぶと、彼女はゆっくりと振り返った。
息を呑むほど整ったその顔立ちは、昔の儚さを残したまま、どこか大人の色香を纏っている。
「……どちら様でしょうか?」
透き通るような、けれど突き放すような冷たい声。
「俺だよ。帰ってきたんだ」
「はて? 十年もの間、私をこの雪の中に置き去りにした不実な男など、私の記憶にはございませんが?」
すんと横を向く雪名。
怒っているというよりは、拗ねている子どものような態度に、俺は胸を痛めながら頭を下げた。
「その……本当に、悪かった。待たせて」
「……はい」
短い返事。沈黙が落ちる中、俺はコートのポケットから小さな小箱を取り出し、握りしめた。
「……あの約束、まだ有効か?」
雪名の細い肩がわずかに揺れた。
彼女は静かにこちらへ視線を戻すと、雪のように白い頬をほんのり桜色に染めて、ふっと柔らかく微笑んだ。
「……当たり前ですよ、馬鹿」
「そっか……良かった。これ、安物しか買えなかったんだけど……」
差し出した箱を開けると、ささやかな銀色の指輪が一つ。
雪名は愛おしそうにそれを見つめると、宝物に触れるように受け取った。
「ありがとうございます。とても綺麗です……でも」
ふわりと近づいてきた雪名は、十年前と同じように背伸びをして、俺の胸元にぎゅっと抱きついてきた。
「……それより、十年ぶりに食べたいです」
「おう。いくらでも持ってけ」
首筋に触れる冷たい唇と、胸の奥からじんわりと温もりが吸い出されていく懐かしい感覚。
全身を心地よい脱力感が包み込んでいく。
白く降りしきる雪の中、彼女の左手の薬指には、ささやかだけれど確かな光が静かに輝いていた。




