おまけ:美学の神と傷だらけの殺し屋
血の匂いが充満する荒れ果てた倉庫
喉を裂かれて倒れ伏した標的を見下ろしながら、女はうっとりと指先を頬に当てた。
"Oh dear, what a sight. A single thrust to the throat, and that vivid red pouring from his lips... Philokalos. Truly, truly philokalos."
(「あーあ、なんということでしょうか。喉元を一突き、口から流れ出る鮮やかな赤……フィロカロス。とても、とてもフィロカロスです」)
"What language is that even supposed to be?"
(「どこの言葉だよ?」)
"Hehe, that is my little secret."
(「ふふ、内緒ですよ?」)
"Fine, whatever."
(「そうかよ」)
煙草を咥えようとした男の腕から、ポタポタと血が滴り落ちている。
女はその深い裂傷を覗き込み、首を傾げた。
"You struggled quite a bit this time, didn't you? Quite unlike you."
(「貴方にしては、ずいぶんと手こずりましたね? らしくありません」)
"Yeah. Looks like the bastard was former military."
(「そうだな。どうやら軍人崩れだったらしい」)
"Is that so? Well then—nom."
(「そうですか。では——カプッ」)
女は躊躇なく男の傷口へと顔を寄せ、その柔らかな唇で傷口を直接甘噛みした。
"Gahh... dammit, that hurts!"
(「ッッッ……いてぇ!」)
"Shhh, stay quiet..."
(「しーっ、静かに……」)
傷口から滲み出る血と痛みを吸い上げるように、女の舌が傷をなぞる。
淡い紫の魔力が傷口を覆い尽くし、やがて肉が瞬く間に再生していった。
"Here you go, all done."
(「はい、どうぞ?」)
"That helps. But seriously... can't you just heal me without the biting, like the way you make the corpses disappear?"
(「助かる。だが……死体を消す時みたいに、噛まずに治せないのかよ?」)
男が呆れ顔で腕をさすると、女はペロリと紅い舌で自らの唇を拭った。
"I could, of course. It's just a matter of personal preference."
(「できますよ? ただの私の趣味です」)
"Haaah..."
(「はぁ〜……」)
心底疲れたような男のため息が、血生臭い倉庫の天井へと静かに溶けていった。




