124話 学期の締めくくりと消えた教官
翌朝の教室
ざわつく室内に、いつもとは違う軽やかな足音が響いた。
「皆さん、席に着いてください」
教壇に立ったのは、いつもの無愛想な教官ではなく、穏やかな笑みを浮かべた教頭だった。
生徒たちから小さなざわめきが起こる。
「あれ? 教官はどうしたんですか?」
「彼は急な所用が入りましてね。本日は、教頭の私が代理を務めます」
「はーい」
委員長は特に疑う様子もなく、真面目に手帳へメモを取ってその事実を淡々と受け入れている。
教頭は眼鏡のブリッジを押し上げ、生徒たちを見渡した。
「さて、明日から短期の休暇に入りますが、羽目を外しすぎないように。それと、自主訓練でダンジョンに入る場合も、生徒の許可区域は15層までです。命を無駄にしないように」
「「「はーい」」」
「以上。良い冒険者生活を」
ホームルームが終わり、帰宅の準備を始めていると、前の席から葛西が振り返ってきた。
「なぁ、西条」
「なんだ?」
「悪いんだけどよ、この休み中はダンジョン探索は無理そうだ。実家の手伝いが入っちまってさ」
「そっか。まあ、ちょうどいいよ。うちも色々大変だしな」
「大変って?」
「陽向先輩が泊まりに来てる。だからダンジョンに潜るのは2年になってからだな。王城にもそう伝えておいてくれ」
「おう、分かった! ……って、はぁぁぁ!? 陽向先輩が西条ん家に泊まってる!? おいおい大丈夫かよ、忍ちゃんブチ切れて修羅場になってるんじゃねぇの!?」
目を丸くして身を乗り出す葛西に、俺は首を横に振った。
「いや? なぜかすごく機嫌がいいぞ」
「マジでか……? あの超ブラコンの忍ちゃんが……? いつ仲良くなったんだよ?」
「知らん」
「ガハハ! ま、女心は分からんってことだな! じゃあな西条、新学期に!」
手を振って教室を出ていく葛西の後ろ姿を見送りながら、俺は荷物をまとめて立ち上がった。
校舎を出て、冷え込みの残る空を見上げる。
(……静香先生、早く帰ってきてくださいよ)
ため息をつきながら、俺は苦笑交じりに呟いた。




