120話 先輩、ミノムシになる
夜道を全力疾走し、肩で息をしながら西条家の玄関に滑り込んだ。
「ふぅ……ふぅ……ッ」
荒い呼吸を整えながらリビングの引き戸を開けると、エプロン姿の忍が何事もなかったかのように穏やかな笑みで出迎えてくれた。
「おかえりなさい、兄さん。もう大丈夫ですよ?」
「……?」
忍が指差すリビングの中央に視線を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「むぅーっ! むぅーっ!!」
床の上でミノムシのように太いロープで幾重にも巻かれ、口に布を噛まされた陽向先輩が転がっていた。
「……お前、それ……」
「はい! また暴走して兄さんに襲いかからないよう、念入りにぐるぐる巻きにしておきました♪ なんだか大きなミノムシみたいで可愛らしいですよね」
忍が満足そうに微笑む横で、床の陽向先輩はモゾモゾと芋虫のように体をくねらせ、懸命に俺の足元へと擦り寄ってきた。
靴下にすりすりと頭を擦り付けながら、潤んだ瞳で必死に上目遣いを向けてくる。
俺はしゃがみ込み、先輩の目線に合わせて問いかけた。
「……先輩、もうさっきみたいなことしませんね?」
その言葉に、先輩は涙目で首を縦に激しく振った。
(こくり、こくり!)
「……分かりました」
深く息を吐き出し、俺は立ち上がって忍に向き直った。
「忍、これの解き方を教えてくれ」
「えっ!? 兄さん、本気ですか!?」
「大丈夫だから。ちゃんと反省してるみたいだし、このまま一晩放置するわけにもいかないだろ」
「……はぁ、兄さんは甘すぎます。仕方ありませんね!」
忍はぷくっと頬を膨らませて不満を露わにしつつも、教えるために先輩の縛り目へと手を伸ばすのだった。




