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118話 先輩、許可範囲を超える

リビングのソファに腰を下ろした瞬間、隣から甘い香りが飛び込んできた。


「後輩く〜〜ん!」


「おわっ! 先輩、いきなり飛びつかないでください!」


「えへへ〜、ぎゅ〜〜っ!」


陽向先輩は俺の腕を抱きしめ、幸せそうに頬をすり寄せてくる。


その様子を台所の手前で見守っていた忍が、エプロンの紐を結びながら声をかけてきた。


「兄さん?」


「何だ、忍?」


「これから夜ご飯を作りますね。その間、陽向先輩のお相手をお願いできますか?」


「おう、任せとけ」


「忍ちゃ〜ん、美味しいご飯お願いね〜!」


「はい、分かりました」


微笑んでキッチンへ向かう忍の背中を見送りながら、俺は先輩に問いかけた。


「いつの間にか、忍とずいぶん仲良くなったんだな」


「うん〜! 私と忍ちゃん、すっごく仲良しだよ?」


「そうか、ならよかった」


「はい〜! だからね……ぎゅ〜〜っ」


先輩はさらに力を込めて抱きついてくると、顔を上目遣いにして俺の首元へと近づけてきた。


「先輩……?」


「んむ……ハムッ……」


「ちょっ、先輩!? 首元噛まないで……」


「ハム……んぅ……ちゅ……」


「やめてくださいって……」


制止しようと肩を押そうとした瞬間、先輩がパッと顔を上げた。


「先輩……?」


問いかける間もなく、視界が先輩の整った顔で覆い尽くされた。


「んむっ……」


柔らかく温かい感触が、真正面から唇を塞ぐ。


驚きで息を呑んだ隙間に、滑らかな舌が躊躇なく口内へと侵入してきた。


「っ……!? ちょ、ぼせんば……んっ……」


「ん……あむ……」


身体から急速に力が抜けていくような奇妙な脱力感に襲われる中、先輩は蕩けたような瞳で貪るように口づけを深めていった。


「やめ……っ……」


「んちゅ……」


「…………」


視界がぐらりと揺れ、完全に意識が飛ばされかけたその時——


バシィィィッッッ!!!


空気を切り裂く鋭い音がリビングに響き渡った。


「うぅぅ……! 痛いよ〜、忍ちゃん……!」


お玉を持った忍に頭を叩かれ、陽向先輩は涙目で額を押さえながら跳び退いた。


その背後に立つ忍の全身からは、ドス黒い神気が陽炎のように立ち上っている。


「陽向先輩ッッ!! 私は、ある程度許可しましたが……そこまでしていいとは一言も許していませんよ!!」


「え〜〜っ! だって後輩くん、すっごく美味しくて我慢できなかったんだもん……!」


額に青筋を浮かべる忍は、慌ててソファに倒れ込む俺の元へと駆け寄ってきた。


「兄さん! 兄さん、大丈夫ですか!? 意識はありますか!?」


肩を揺さぶられ、俺は呆然と天井を見つめながら、指先で自分の唇に触れた。


「……先輩の唇って、めちゃくちゃ柔らかいんだな。舌も……」


「兄さーーーーん!? どこに感銘を受けて正気を失っているのですかぁぁぁッ!?私ともしてください!!」


普段の冷徹さが完全に崩壊し、絶叫しながら俺の胸ぐらを掴んでガクガクと揺らす忍の声が、リビング中に木霊するのだった。



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