幕間 対抗戦終了後・夕暮れの屋上にて
茜色の空が広がる放課後の屋上
冷たさを増した夕暮れの風が金網を揺らす中、無口な教官が一人、腕を組んで佇んでいた。
ギィィと重い鉄扉が開き、軽やかな足音が近づいてくる。先ほどまでクラスをまとめ上げ、見事に最終試験を乗り切った委員長だった。
「はい! これ、教官! 本番での実戦データも追記しておきましたよ!」
差し出されたのは、事前の教室で西条章が手際よくまとめ、さらに今日のダンジョン内で彼女自身が集積したクラス全員の能力リストだった。
「……助かる」
「もう! ちゃんと仕事してくださいよ! 潜入調査の現場サポートからデータのアップデートまで、全部私に丸投げなんですから!」
「……悪い」
いつものように眉一つ動かさず、感情の読めない声で謝る教官。
委員長は呆れたように肩をすくめ、深いため息を漏らした。
「はぁ……。それにしても、私にくらい事前に教えておいてくれても良かったんじゃないですか? あの賞品の裏に隠された『上位討伐任務』の件!」
「……悪い」
「またそれですか! まぁいいですけどね。西条君たちのおかげで無事に4位に滑り込めて、私も平和な国内旅行に行けますし」
委員長はペラリと書類をめくりながら、いたずらっぽく目を細めた。
「それに、能力表の精度は完璧。西条君のまとめを土台に実戦データも取れましたし、誰が伸びそうかもかなり見えてきました……使えそうな優秀な子がたくさん見つかりましたから、卒業と同時に特務機関のスカウト枠でごっそり貰っちゃいますね?」
「……そうか。勝手にしろ」
「は〜い♪ 楽しみにしててくださいね!」
委員長は楽しげに鼻歌を歌いながら、書類を鞄にしまい込んだ。
そのあどけなさを残した横顔を見つめながら、教官がポツリと、どこか気遣うような声音で問いかける。
「……お前、楽しめてるのか? 学生のフリなど」
委員長は一瞬だけ目を丸くし、それから夕陽を反射する瞳をいっぱいに輝かせて満面の笑みを咲かせた。
「うん? ……うん! 命のやり取りばかりの任務と違って、みんなでバカやって笑い合える普通の学校生活……今、すっごく楽しいよ!」
「……そっか。なら、良かった」
教官の口元が、ほんの数ミリだけ柔らかく緩む。その極めて貴重な変化を見逃さず、委員長はニヤリとからかいの笑みを浮かべた。
「ふふ、それより教官。そんなに無口で無愛想だと、いつか静香先生に本気で愛想を尽かされちゃいますよ? もう少し言葉で伝えないと!」
「……善処する」
「はいはい、全く期待しないで見てまーす。では、また明日!」
委員長はひらひらと手を振り、弾むようなステップで階段を降りていった。
パタンと扉が閉まり、再び静寂が戻った屋上。
教官は一人、夕陽に赤く染まりゆく街並みを見下ろしながら、長いため息をこぼした。
「……ふぅ」
静かな呟きは、秋の夕風に溶けるように消えていった。




