113話 旅行より大切なもの
夕暮れの帰り道。
並んで歩く葛西が、晴れやかな笑顔で肩をぶつけてきた。
「西条、やったな!」
「そうだな」
「これで平和な国内旅行だぜ! 美味いもん食って温泉入って、マジで楽しみだな!」
「……そうだな。葛西、それとな……」
「ん? なんだ?」
俺は立ち止まり、静かに告げた。その言葉を聞いた瞬間、葛西は大きく目を見開き、信じられないものを見るような表情で固まった。
ガチャリと玄関のドアを開けると、パタパタと軽やかな足音が廊下に響いた。
「兄さん! お帰りなさい!」
「おう、ただいま」
エプロン姿の忍が、満面の笑みで出迎えてくれる。
「兄さんのクラス、見事4位だったんですよね! おめでとうございます!」
「おう、ありがとな。……忍のクラスはどうだったんだ?」
「私のクラスは1位でしたね。ラストの部屋でスコアを抑えきれなくて、皆さん張り切ってたくさん倒してしまいました」
「そうか……」
1位ということは、海外モンスター討伐任務付きの旅行だ。忍なら問題ないだろうが、それでも過酷な現場には違いない。
「それで兄さん、いつからなんですか?」
「?」
「国内旅行ですよ。……できれば、兄さんには羽を伸ばして行ってほし……」
「行かない」
忍の言葉を遮るように、俺は即答した。
「……えっ?」
予想外の返答に、忍がぽかんと口を開けて固まる。
「俺は旅行には行かない。……この前みたいなことがあったばかりだろ。忍を一人きりにして、遠くへなんて行けるわけがない」
「ッッッ……兄さ〜〜〜ん!!」
ドサッ! と凄まじい勢いで忍が胸元へと飛び込んできた。
「お、おわっ!?」
「私も行きません! 1位の討伐旅行なんて速攻で辞退します!! ……ふふ、二人きりでお留守番……これは実質、新婚生活ですね……!」
「?」
小声で何やら企むような呟きを聞き逃した俺の胸に、忍はスリスリと顔を埋めて甘えてくる。
「兄さん! 兄さんっ!!」
「……何だよ?」
「大好きです! 世界で一番、兄さんのことが大好きです!!」
「……おう」
抱きついて離れない妹の頭を優しく撫でながら、俺は自宅の温もりの中で小さく微笑むのだった。




