108話 試験の裏
委員長が立ち去った後、葛西が肩を落として小さく頭を下げてきた。
「西条、悪ぃ……! 手の内隠すって決めてたのに、つい本気出しちまった」
「大丈夫だ。仲間の一大事だったしな。咄嗟に身体が動くのは良いことだからな」
「そうか……ありがとうな、西条」
「おう」
そんな会話を交わしていると、ダンジョン出口の掲示板の前から、割れんばかりの歓声と高笑いが響き渡った。
「やりましたわーーーッ!! わたくしたちのクラスが、堂々の総合第1位ですわ!!」
「本当だねー! みんな凄いよー!」
「ふふ、ふふふ……! これで豪華海外旅行はわたくしたちのものですわ!」
飛び跳ねて喜ぶ舞香と、拍手して称える委員長。
だが、その順位表を見つめながら、葛西が怪訝そうに眉を寄せた。
「……なぁ西条? なんかおかしくないか? 俺たちのクラス以外大して魔石稼いでねぇぞ?」
「ああ、俺もそう感じた。……ちょっと先生に聞きに行くか?」
「そうだな! でもあの無口な教官に聞いても絶対マトモに答えねぇから、静香先生のところに行こうぜ!」
「分かった」
コンコン、とノックして保健室の扉を開けた瞬間。
「あっ! 後輩く〜〜ん!! ぎゅ〜〜っ!」
柔らかな感触とともに、陽向先輩が物凄い勢いで俺の胸へと飛び込んできた。
「わっ……せ、先輩、お久しぶりです」
「えへへ〜! やっぱり後輩くんの匂い、すっごく美味しい〜〜!」
「……?(美味しい……?)」
頭をすり寄せて甘えてくる先輩の頭をポンポンとなだめていると、デスクの向こうから白衣を着た静香先生が眼鏡の位置を直しながら顔を上げた。
「ふふ、どうしたの二人とも? そんな切羽詰まった顔をして」
「あの、静香先生。今回のクラス対抗戦のことで、少しお聞きしたいことがありまして……」
俺と葛西は、試験の不可解なスコア変動と順位の仕組みについて手短に説明した。
——数分後。
事情を聞き終えた静香先生は、あきれたように深く息を吐き出した。
「……なるほどね。貴方たち、賞品の詳しい内容を聞いてないの?」
「何を、ですか?」
「はぁ……あの人、相変わらず生徒への説明不足が過ぎるわね」
静香先生はカルテを机に置き、呆れ顔で人差し指を立てた。
「いい? 1位から3位の報酬にある『海外旅行』や『温泉旅館』はね……現地のモンスター討伐任務のおまけ(付属)なのよ」
「「? つまり……?」」
「豪華リゾート地で羽を伸ばして楽しむ前に、まずは、現地の指定モンスターを討伐しなきゃいけないってこと」
「「? つまり……!?」」
「最初から最後まで純粋にバカンスを楽しめるのは……何の実戦任務もついてこない『4位の国内旅行』だけよ?」
保健室に、静かな戦慄が走った。
「あ、あの無口教官謀りやがったなァァァッ!! おい、これマジでやばいぞ西条! 1位の海外なんて行ったら、とんでもねぇ化け物と戦わされるぞ!!」
「そうだな……。先生、それと——」
「おい西条! 早く教室に戻るぞ! みんなに説明して明日から4位にスコア調整するぞ!!」
葛西はパニックになり、俺の腕を強引に引っ張って保健室を飛び出そうとする。
「おい葛西、待てって! まだ先生に聞きたい話があるんだよ!」
「後回しだ! 命がかかってんだよ!」
「バイバ〜イ、後輩く〜ん! またぎゅ〜させてね〜〜!」
能天気に手を振る陽向先輩と苦笑いする静香先生を背に、俺は葛西に引きずられるようにして廊下へと引っ張り出されるのだった。




