107話 火事場の馬鹿力、ということにしておこう
翌朝
ダンジョン中層の開けた広場にて、舞香は朝からやる気満々で魔導杖を構えていた。
「今日も頑張りますわよ! 今日こそ上位に食い込んでみせますわ!」
「よろしくねー! 今日の私の巡回監視、まずはこのエリアからだから!」
「おう、委員長よろしくな」
「よろしく」
笑顔の委員長に見守られる中、通路の奥からトロールの群れが地響きを立てて現れた。
舞香がビシッと杖の先を向ける。
「さあ! 葛西さん! 西条さん! やっておしまいなさい!」
「……や〜」
「……とりゃ〜」
俺は刀の背でトロールの足を軽くペチリと払い、葛西は全く腰の入っていない脱力した突きを繰り出してスカッと空を切らせる。
昨日と寸分違わぬ、見事な省エネ大根芝居だ。
「またお二人とも手を抜いてぇーーッ!?」
「うーん……西条君、葛西君、真剣にやらないとダメだよ?」
見かねた委員長が苦笑いしながら注意してくる。
「分かった」
「……とりゃ〜」
「全然聞いてないし! ……ねぇ王城さん、彼らっていつもあんな感じなの?」
「うーん……わたくしが家の修行で抜けている間に、すっかり腑抜けてしまいましたの! ですが問題ありませんわ、わたくしがいますから!」
胸を張って前に出ようとした舞香。
その油断を突き、天井の岩陰に潜んでいたカメレオン型の擬態モンスターが音もなく落下してきた。
「あっ、王城さん!? 後ろっ!」
「えっ……きゃあ!?」
振り向いた舞香の眼前、鋭利な鉤爪が振り下ろされる寸前——
ガキィィィンッッ!!!
目にも留まらぬ速度で割り込んだ委員長が、展開した光の結界で爪を間一髪受け止めて弾き返した。
「ふぅ……危なかったー! 間に合ってよかったー!」
「た、助かりましたわ……!」
「いえいえ!」
舞香の悲鳴を聞いた刹那、それまで気の抜けた顔をしていた葛西の空気が一変した。
「王城ッ!」
ドシュッッ!!!
誰一人として反応できないほどの凄まじい踏み込みから、電光石火の刺突が一閃。
体勢を崩していたモンスターの眉間を長槍で正確無比に穿ち、葛西は一瞬にして敵の命を刈り取って霧散させた。
「……葛西さん! やっと本気を出してやる気になったのですわね!?」
「い、いや違うぞ!? 今のは身体が勝手に動いちまっただけで……な!?」
慌てて取り繕う葛西だったが、その背後からスッと冷たい視線が注がれていた。
「葛西君、すごーい! そんなに動けたんだ?」
委員長がジトッとした目で葛西をじっと見つめる。
「い、いや! 違うって! 仲間が危なかったから咄嗟に火事場の馬鹿力が出ただけで……!」
「へぇ……? そうなんだ?」
委員長にじっと見つめられ、葛西の顔が引きつった。
委員長はパッといつもの無邪気な笑顔に戻り、手を叩いた。
「ま、いっか! 二人とも気をつけてねー! 私、そろそろ違うパーティの様子を見に行ってくるから!」
「お、おう……!」
軽やかな足取りで去っていく委員長の背中を見送りながら、俺と葛西は顔を見合わせ、冷や汗を拭うのだった。




