106話 全力で、力を抜け
試験二日目。
ダンジョンの中層へと転移したところで、委員長の提案通りパーティごとに別れて探索することになった。
「みんなー! 各パーティの動きは私が順に見て回るからねー! 張り切っていこー!」
笑顔で見送る委員長に手を振り返し、俺たちは3人で洞窟の脇道へと足を踏み入れた。
前方から現れた数体のオークを見据え、舞香が杖を掲げて堂々と指を突き出す。
「西条さん! 葛西さん! やっておしまいなさい!」
「……や〜」
「おりゃ〜……あー、逃げられたかー、くそ〜」
俺は抜刀もせず鞘のままペチリと叩き、葛西はあからさまに軸を外した槍の突きを繰り出してオークを素通りさせた。大根役者も真っ青の棒読み連携である。
「ちょ、ちょっとぉッ! 真剣にやってくださいまし! いつものキレはどこへ行きましたの!?」
「葛西、声がでかい。適当にやってるのがバレるだろ」
「お前こそ、あんな強ぇ魔刀(小虎)持ってんだから一発くらい派手に振れよ、西条」
「目立つなって言っただろ。……いいか、真剣に全力で力を抜くぞ、葛西」
「おう、分かったぜ!」
「もう全く……! わたくしが修行でいない間に、二人揃って腑抜けてしまったのですか!? 仕方ありませんわね、ここはわたくしに任せなさい!」
激怒した舞香が前へと躍り出る。
魔導杖の先端に目も眩むような超高密度の火炎が渦を巻き、轟音とともにオークの群れごと洞窟の壁を吹き飛ばした。
「……西条?」
「……もう何も言うな」
「……分かった」
俺と葛西は、炭化してガラガラと崩れるオークの残骸を呆然と見つめ合うしかなかった。
【放課後 —— ギルドの集計所】
ダンジョンから帰還し、ロビーの掲示板に貼り出された最新の順位表を見て、舞香が歓喜の声を上げた。
「やりましたわーーッ! 4位! 最下位脱出ですわ!」
「お疲れー、王城さん! やっぱり個々の連携とパーティの自立が大事みたいだったね! よかったー!」
委員長がパチパチと拍手しながら舞香を労う。
舞香は「ふふん!」と得意げに胸を張り、クラスメイトたちへ自慢しに駆けていった。
その背中を見送りながら、葛西が掲示板の数字を指差して眉をひそめた。
「……? なぁ西条、この魔石の総獲得数……昨日からあんまり増えてなくねぇか? 順位は上がってるのに」
「さぁな。他のクラスがサボったんじゃねぇか?」
「そうか……? なんか変な感じするけどな」
首を傾げる葛西の横で、ある項目をじっと見つめていた。
(魔石の数ではなく、『動きの評価』で順位が変動しているのか?……。やっぱりこの試験、表向きのルールとは別の『何か』を測られているな)
確信を深める俺の視線の先で、委員長がこちらを見て意味深に小さく微笑んでいた。




