104話 修行の成果と、治らない慢心
十分なインターバルを挟み、回復薬を飲み干したクラスメイトたちの顔には、再び戦意がみなぎっていた。
「みんな、休憩できた? よーし、行くよー!」
委員長の軽快な号令で、全員が立ち上がる。目の前にそびえ立つのは、重厚な装飾が施された巨大なボス部屋の扉だった。
「ここ、これまでの階層よりかなり強い魔物がいるんだって。みんな、気合いを引き締め直してね?」
「任せろ!」
「へっ、今の俺たちなら何が出てきてもやれるぜ!」
「おうよ!」
士気は十分。軋むような重い音を立てて、巨大な扉がゆっくりと開け放たれた。
ギィィィ……
広大な空間の奥底に座していたのは、漆黒の巨躯と禍々しい二本角を持つ上位種——ホブデーモンだった。圧倒的な威圧感が部屋中に立ち込める。
「みんな! 散開して、事前に決めたあの順番で——」
委員長が指示を出し終える、その瞬間だった。
ドォォォォォンッッ!!!
空気すら凍てつかせる凄まじい冷気とともに巨大な氷槍が閃光のごとく空間を貫通した。
ホブデーモンの分厚い胸板を正確に穿ち、その巨体を一撃で氷漬けに粉砕する。
「?!?」
「グオォォ……ッ……」
断末魔の叫びとともに、氷塊がガラガラと崩れ去り、床には巨大で上質なボス魔石だけがポツンと転がっていた。あまりの瞬殺劇に、部屋全体が静まり返る。
「……? や、やったのか……?」
「すげぇ……今の一撃、誰が撃ったんだ!?」
「あんな特大の氷魔法、王城さんしかいねぇだろ!?」
「マジかよ!! 一撃だぞ!?」
ざわめくクラスメイトたちの中央で、杖を構えた舞香がフンスと誇らしげに胸を張った。
「ふん! この王城舞香にかかれば、この程度の雑魚、造作もないことですわ!」
「すげーよ! 王城さん!!」
「うん! 尊敬するよ!」
「そうですか? ふふ、もっともっと褒めてくださってもよろしくてよ!?」
一瞬でクラスの英雄となった舞香は、「わーっ!」と群がってきたクラスメイトたちにもみくちゃにされ、得意満面の笑顔を浮かべていた。
その様子を部屋の隅から呆れ顔で眺めながら、葛西がぽつりと呟いた。
「……なぁ西条。あいつ、結局なんも変わってなくねぇか?」
「……そうみたいだな」
俺はスマホを取り出し、画面をタップしながら静かに息を吐いた。
「これは、王城の婆さんに連絡だな。『修行の成果で調子に乗っています』って」
「おいおい、それ送ったらあいつマジで死ぬぞ……」
歓声の中心で調子に乗るお嬢様を見つめながら、俺たちは揃ってやれやれと首を振るのだった。




