98話 いつも通りの朝
翌朝。
カーテンの隙間から差し込む朝陽で目が覚めた瞬間、昨夜の光景がフラッシュバックして跳ね起きた。
「忍……!?」
心臓が嫌な跳ね方をする中、俺はパジャマのままリビングへ急ぎ足で向かった。
バッとドアを開けると、そこにはエプロン姿で朝食の準備をしていた妹が、パッと顔を輝かせて振り返った。
「あっ、兄さん! おはようございます!」
「……っ、良かった……忍」
キッチンに立ついつも通りの元気な姿を見て、張り詰めていた肩の力が一気に抜けた。
「? なんですか、改まって?」
「いや……何でもない」
「はい!」
忍は嬉しそうに微笑むと、フライパンを火から下ろしてリビングのソファへと小走りで向かった。
「兄さん、こっちに来てください!」
促されるまま、俺はソファへ向かい、忍の隣へとストンと腰を下ろす。
触れ合う肩の温もりにホッとしたのも束の間、忍は俺の太ももをポンポンと叩いた。
「兄さん、膝枕!」
「おう、いいぞ」
忍は嬉しそうに俺の膝の上に頭を乗せ、コロンと仰向けに寝転がった。
「えへへ……兄さんの匂いがする……♪」
俺は無事だった愛おしさを噛み締めながら、妹の柔らかな黒髪にそっと手を伸ばした。
サワサワと指先で優しく梳くように撫でてやる。
「ふふ、くすぐったいですよ? 兄さん」
「……忍」
「はい?」
まっすぐに見つめ返してくる大きな瞳を見つめ、俺は胸の奥に溢れていた本音をそのまま口にした。
「……大好きだ」
一瞬、忍は驚いたように目を丸くし、それから花が咲き誇るような満面の笑みを浮かべた。
「はい! 兄さん! 私も、世界で一番大好きですよ?」
「…………」
言葉を交わした後、忍はスッと目を閉じ、小さく唇を突き出して上を向いた。
完全に無防備な、絵に描いたような「キス待ち顔」である。
「……? 何してるんだ、忍?」
「えっ……? ち、違うんですか……!?」
パッと目を開けた忍は、顔を真っ赤にして信じられないものを見るような表情で固まった。
「はぁ……いつも通りだな。心配して損したよ」
「な、なんですかもう! もっと心配してください! そこは流れでチュッてするところじゃないですかぁ!」
ぷりぷりと怒りながら俺の太ももをポコポコと叩く忍を見て、俺は思わず吹き出してしまった。
昨夜の恐怖が少し溶けていくのを感じながら、俺はもう一度、その頭をぽんぽんと撫でた。
「おう。……もう二度と、俺から離れてどこにも行くなよ?」
「……っ! はいっ!!」
忍は顔いっぱいに幸せを滲ませ、俺の腰へぎゅっと抱きついて甘えるのだった。




