11話 王城舞香は謝りたい
「さて、行くわよ? 陽向」
「は〜い、先生」
忍の『紙』を懐に仕舞い込むと、保健室の先生は背を向けた。
「ち、ちょっと待ってください! さっきのは一体何だったんですか!?」
思わず呼び止める俺に、先生は肩越しにちらりと視線を送る。
「……貴方はまだ知る必要はないわ」
それだけ言い残し、二人は校舎の奥へと去っていった。
(何なんだよ、一体……)
モヤモヤしたものを抱えたまま、俺はとりあえず自分の教室へと戻った。
ドアを開けると、教室内は先ほどの狂気が嘘のように静まり返っていた。
席につくと、隣から直哉が申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「おう、西条……さっきは悪かったな」
「……お前、なんか変だったぞ?」
「なんか……お前の顔見てると、無性にむしゃくしゃしてきてさ……」
「そうか」
「今はもう全然大丈夫だ!」
「本当か?」
「いや待て……やっぱりまた殴りたくなってきた」
「……!?」
俺がとっさに身構えると、直哉はニッと歯を見せて笑った。
「冗談だよ、冗談!」
「……心臓に悪い冗談はやめろ」
胸を撫で下ろしていると、バタバタと大きな足音が近づき、俺のデスクの横でピタリと止まった。
「あの! さっきは襲ったりして悪かったわね!」
見上げると、先ほど腕を振り上げて襲いかかってきた金髪の少女が、両腕を組んでプイッと横を向いていた。
「あっ……おう」
「な、何よその素っ気ない態度は! この王城 舞香が直々に謝っているのよ!? 何故そんな『あ、そう』みたいな反応なのよ!」
高飛車に叫ぶ少女に、直哉がガバッと身を乗り出した。
「お、王城だって……!!?」
「知ってるのか、葛西?」
「知らん!」
「知らんのかい」
思わずツッコミを入れる。
王城舞香はカチーンと凍りついたあと、顔を真っ赤にして叫んだ。
「ッッッ! あんたたち、無知にも程があるわ! 現代の冒険者が使っている魔導武器の3割を作っている、あの『王城グループ』の令嬢よ!? この学校にだって、うちが武器を大量に提供してあげてるのよ!?」
「そうか」
「う〜ん……」
俺と直哉は顔を見合わせ、同時に生返事を返した。
「……何よその反応!? 私に感謝の気持ちとかはないの!?」
「「?」」
二人揃って首をかしげる。俺は溜息を混じえながら、至極真っ当な事実を口にした。
「いや……感謝って言われても、提供してるのはお前の親だろ? お前自身は何もしてないだろ」
「そうだな。お前自身からは、昨日、教官に腹殴られて泡吹いてた姿しか見てねえし」
「ガーーーーーン……っ!!? もういいわよ! 席に戻りますおバカさんたちっ!!」
舞香は涙目になりながら自分の席へと走り去り、ガタッと激しい音を立てて着席した。
「……あいつ、何しに来たんだ?」
「さあな。でも、ちょっと面白かったぞ」
俺と直哉は顔を見合わせて苦笑し、嵐のような朝の騒動はやっと終わりを告げた。




