96話 もう怖くないからな
「助かったわ、静香ちゃん〜!」
命拾いした坂倉が情けない声を上げてへたり込む。
その直後、静香の後ろから小走りで駆け込んできた影が、章の腰へと飛びついた。
「後輩く〜ん! ぎゅ〜っ!」
「……せ、先輩?」
「……陽向ちゃんもおるんかいな……」
坂倉が露骨に嫌な顔をした瞬間、倉庫の影からノッシと姿を現したのは、無口な教官だった。相変わらず感情の読めない冷徹な瞳で坂倉を見下ろしている。
「……坂倉。こっちに来てもらおうか」
「げぇッ! あんさんもおったんかいな……!」
「とりあえず、陽向。お願いね」
「は〜い!」
静香の合図で、陽向が章からパッと身体を離し、坂倉へ向けて小さな手のひらをかざした。
「なんや……?」
「えいっ!」
陽向の手から放たれた幾重もの眩い光の輪が、坂倉の四肢と胴体を瞬時に縛り上げる。
「はあ!? ちょっ……なんやこれ、力……めっちゃ抜けるわ……」
魔力と筋力を完全に無力化された坂倉は、なす術もなく床に突っ伏した。静香は氷のように冷たい視線で彼を見下ろす。
「貴方の身勝手な行動の件は、後で報告させてもらうわ」
その声を聞き流しながら、章はすぐさま結界の解けた壁際へと駆け寄った。
「大丈夫か……っ! 忍!」
「兄さん……っ! 私……私、こんな姿にされて……酷いことされました……! 兄さん、ごめんなさい……っ!」
忍は首輪をつけられたまま、恥辱と恐怖に震えるようにボロボロと大粒の涙を零す。
章は迷わず自分の上着を脱ぎ、薄着姿の忍の細い肩へ優しく包み込むように掛けた。
「大丈夫だ! 忍、もう大丈夫だから……!」
「うわぁぁぁんっ……! 兄さん……っ!!」
忍は章の胸へと飛び込み、すがりついて激しく泣きじゃくった。章はその背中を何度も、落ち着かせるように優しく撫で続ける。
「よし、よし……もう怖くないからな」
その時、倉庫の入り口からドタドタと足音が響き、外の式神を一網打尽にした直哉と舞香が駆け込んできた。
「西条! 終わったのか!?」
「ああ……なんとかな」
「そうか……! よかった、本当によかったぜ!」
長槍を下ろした直哉が心の底から安堵の息を吐き、舞香も胸元に手を当てて優しく微笑んだ。




