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94話 なぜ、まだ立てる?

章はそう言い残すや否や、理性を焼き切るほどの怒りを宿して一気に間合いを詰めた。


「まあ待ちぃな」


――速い。


反応する間もなく、坂倉の手刀が章の後頭部を正確無比に捉えた。


ドゴォォォンッ!!


強烈な衝撃とともに頭からコンクリートの地面へと叩きつけられ、クレーター状にめり込む。


「兄さん――ッ!?」


忍が悲痛な叫びを上げる。坂倉は鎖を乱暴に引き寄せた。


「こっち来い、忍ちゃん」


「あっ……!」


抵抗する間もなく壁の端へと引きずられていく。坂倉は指先を翻し、忍の周囲に幾重もの光の檻を展開した。


「さて、ここで大人しゅう防御結界に入っとき? 今のあんさん、魔力封じられて生身同然やからな」


坂倉はそのまま、壁に立てかけてあった黒い一本の長槍を手に取った。


「さて……僕の獲物はこれでええやろ。……あれ? いつまで地面にめり込んどるんや?」


「ぐ……っ……」


血を流しながら、章が軋む身体を無理やり引き剥がして立ち上がる。


「そうやで? 立たんとな、話にならんやろ?」


章は返事すらしない。


怒りに染まった瞳のまま、無言で『小虎』を一閃させた。放たれた衝撃波の斬撃が空を裂いて迫る。


「効かんわ」


カンッ! と乾いた金属音とともに、坂倉は手にした槍先で鋭利な斬撃を紙一重で弾き飛ばした。


「ほな、次はこっちの番やで?」


突風が吹いたかと思った瞬間には、坂倉はすでに章の眼前に潜り込んでいた。


ドガッッ!!


槍の石突きが章の鳩尾へ深々と突き刺さる。


肺の空気をすべて吐き出しくの字に折れ曲がった章の顎へ、流れるような動作で槍の柄が下から豪快にかち上げられた。


バキィッッ!!


「ぐ、ぁ……っ!!」


身体が宙に浮き、激しく床を転がる。


口元から鮮血を零しながらも、章はヨロヨロと、折れそうな膝を震わせて再び起き上がった。


「ふぅ……その程度かいな? お兄ちゃん」


坂倉は軽口を叩きながらも、内心で微かな戦慄を覚えていた。


(……なんやこいつ。さっきの胴と顎への連撃、普通の冒険者なら即座に意識を刈り取られて気絶する威力やったのに……なんで立ってられるんや?)


章は拭いもしない血の向こうから、ただひたすらに、獲物を絶対に逃さない獣のような眼光で坂倉をじっと見据えていた。



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