92話 相棒に背中を預けて
GPSが指し示す工業地帯の最深部。
不気味に佇む巨大な廃倉庫の前に、俺は息を切らして辿り着いた。
「ここか……!」
「おい、西条!」
背後から駆け寄ってきたのは、愛用の長槍を携えた葛西だった。
「葛西、すまない……! わざわざ来てくれて」
「別にいいって! 水臭いこと言ってんじゃねぇよ。それより、早く行こうぜ!」
「そうだな!」
二人で固く頷き合い、倉庫の敷地内へと足を踏み入れた——その瞬間。
『コォン……!』
闇の中から、奇妙で鋭い鳴き声が響いた。
「なんだ……? こいつ!」
「葛西! 避けろッ!」
「うわっとぉ!?」
半透明の霊気を纏った巨大な狐のような異形——式神が、猛スピードで葛西の死角から肉薄していた。
切り裂かんと鋭利な爪が直哉の喉元へと伸びる寸前、葛西は紙一重のバックステップでそれを躱した。
「よくもやってくれたな……今度はこっちからだッ!」
葛西は槍を鋭く繰り出し、疾風のような突きを放つ。しかし、身軽な狐の式神はひらりと空中で身を翻して躱した。
——だが、その隙を俺が見逃すはずがない。
「はぁッ!」
腰の『小虎』を一気に振り抜く。
放たれた不可視の衝撃波が空間を切り裂き、狐の式神の胴体を真っ二つに両断した。
魔力を断たれた式神は、断末魔の叫びとともに霧散していく。
「やったな、西条!」
「おう!」
息を合わせた瞬殺。だが、安堵する暇は微塵も与えられなかった。
『コォン……!』
『コォォン……!』
『コォン……!』
暗闇のあちこちから、青白く光る無数の瞳が浮かび上がる。
「おいおい……まさか、まだこんなにいるのかよ!?」
「これは困ったな……囲まれたか」
十数体を超える式神の群れが、確実に俺たちの退路を塞ぎにかかる。
この数を相手に時間を取られていては、忍の身がもたない。焦りが募る俺の背中を、葛西の分厚い手のひらが力強く叩いた。
「西条! お前は先に行け!」
「!? 葛西、お前……一人で大丈夫なのか!?」
「ああ! 後で助っ人が来るはずだからな。そこまで持たせるくらい、今の俺なら余裕だ!」
「……っ! 分かった、頼む!」
「おう! 忍ちゃんを絶対に助け出してこいよ!」
葛西が長槍を構え直して咆哮を上げるのを背に、俺は倉庫の奥へ続く扉を蹴破り、ただひたすらに走り出した。




