254:謎の人工天体へ
艦治はナギ型ヒューマノイドを操る謎の人物に連れられて、見覚えのない空飛ぶジェットスキー型筐体に乗って空高く昇って行く。
目指す人工天体の大きさはほぼ変わらないが、この筐体の飛行速度はマッハを優に越え、第二宇宙速度に到達している。
ナギ型ヒューマノイドと艦治が座っているシートの周りは謎の技術で保護されており、重力や慣性などの影響を受けない。呼吸や会話をする事が可能だ。
艦治が下を振り向いても、もうフェス会場を見る事が出来ない。
「君は一体誰なんだ!?」
「さぁ、一体誰になるんだろうね」
「誰になる? どういう意味だ!?」
「もうすぐ分かるのではないでしょうか」
艦治は先ほどから、謎の人物の口調や態度がコロコロと変わっている事に気付いていた。
複数の人物から遠隔操作を受けているのか、それとも遠隔操作している人物がコロコロと変わっているのか……。
(クソ、こいつに付いて来たのは間違いだったか?
まなみ、無事で居てくれよ……)
艦治が謎の人物に問い掛けて、曖昧な返事でけむに巻かれるというやり取りを複数回続けた後、ようやく目的地が目と鼻の先まで近付いて来た。
フェス会場で開会宣言をしていたのが午前八時半過ぎで、今艦治の視界に表示させているデジタル時計が午前十一時半を示している。
すでに大気圏を越えて、宇宙空間へ飛び出している。
こんなジェットスキーみたいな乗り物で宇宙旅行をするとは思ってもみなかった艦治だが、今はそれどころではない。
(見た目は鳳翔と全く同じように見えるけど)
これから敵性知的生命体の本拠地に乗り込むべく、謎の人工天体を観察する。
艦治は鳳翔を外からじっくりと眺めて事はなかったが、どちらも月のような丸い岩石状の天体で、あまり違いが感じられない。
(鳳翔はどこだ? ラスプチニスタンにいたから方角的にどこに静止していたか分からないな)
鳳翔はいつも、月の衛星軌道よりも外側に配置されている。
月よりも大きな鳳翔を、地球から見て月と同じサイズ感に見せる為だ。
地球と比べて小さく、思っている以上に遠いので、地球の影に隠れていれば見つける事は出来ない。
「さぁ、そろそろ乗り込むぜ!」
謎の人工天体が視界一杯に映し出される。
近付いているというよりも、謎の人工天体へ向けて落下しているような錯覚を来す。
(まなみ、今行くからね!!)
艦治は謎の人工天体に乗り込む不安よりも、謎の人物に対する疑念よりも、自分の身がどうなるかの心配よりも、まなみを失う事の恐怖が勝っており、絶対に助け出すという強い意志のみで自分を保ち続けている。
艦治達が乗る空飛ぶ筐体が近付いているのにも関わらず、謎の人工天体からの迎撃行動は一切ない。
むしろ、格納ハッチが現れて、空飛ぶ筐体をその身の中へ受け入れるかのように口を大きく開いて行く。
「準備は良いかしら?」
「良いから早く中に入れ!!」
格納ハッチから謎の人工天体へ侵入し、謎の人物は勝手知ったる我が家かのように右へ左へ上へ下へと通路を進み、艦治が乗っているのと同じ見た目の筐体が複数格納されているドックへと着陸した。
「早くここから出してくれ!」
「今出たら窒息しますわよ、もう少しお待ち下さいな」
ドック内には人気がなく、薄暗い。
艦治達が入って来た入り口が完全に閉鎖された後、ドック内に空気が充填されるのを待ち、ようやく謎の人物が空飛ぶ筐体の保護膜を解除する。
艦治は空飛ぶ筐体を飛び出して、ドック内を見回した。
≪ナギ、ナギ、謎の人工天体に侵入した! 援護出来るか!?≫
≪まなみ、聞こえる!? まなみ!!≫
ダメ元で電脳通信を試みるが、やはり艦治に応える声は返って来ない。
(闇雲に走り回っても仕方ないけど、どこに向かえば良いかも分からない。
ナギ型ヒューマノイドも誰なのか分からないし、様子もおかしい。
自分で何とかしないと……)
幸いな事に、亜空間収納にはアクセスが出来る。
有効範囲の狭い刀では心許ないが、身体強化スキルがあるので大抵の攻撃は躱せるだろうと艦治は考えている。
(さぁ、右か、左か、それとも奥か)
油断なくドック内を見回していると、薄暗かった室内が急に明るくなる。
そして、ワープゲートが開いて三人の人物が姿を現した。
「「「エイプリルフール!!」」」
三人の人物、まなみと真智型ヒューマノイド、そして黒ずくめの謎の人物が楽しげにそう告げるが、今の艦治には全く理解出来ないようだ。
「…………はぁ?」
「艦治、今日はエイプリルフールや、ウソついてええ日や!
しかもまだ午前中やからセーフや!!」
真智が艦治に駆け寄り、腰に抱き着く。
「かんち、ごめんね? 私も今日聞かされて……」
「まなみ、無事なの?」
「えっ? うん、大丈夫だよ」
「はぁっ!? ちょっ」
まなみの無事を確認した艦治は、身体の力が抜けて膝から崩れ落ちた。
巻き込まれた形の真智が、艦治の下敷きになっている。
「全く、お袋の事となると他に目が行かなくなんのはこん時からかよ」
まなみが艦治に駆け寄ろうとするが、隣の黒ずくめの人物がまなみの腕を取って止めた。
「まなみお母さんもだね」
ナギ型ヒューマノイドを遠隔操作する謎の人物が、まなみの代わりに艦治を抱き起こす。
「椅子をご用意致しました」
いつの間にかこの場にいたナギ型ヒューマノイド(ナギ)が、艦治とまなみが落ち着けるようにと、亜空間収納からソファーを取り出して設置した。
二人の謎の人物の介助を受けて、艦治とまなみが隣同士でソファーに座る。
艦治がまなみを頭を抱えて抱き締めた。
「まなみ、良かった。まなみに何かあったらと思うと……」
「ごめんね、ちょっとやり過ぎたかも」
まなみの無事を喜ぶ艦治と、艦治の疲労困憊ぶりを見て反省するまなみ。
「ヒューヒュー、パパとまなみママ熱々ぅー」
ナギ型ヒューマノイドが二人を茶化す。
「それで、ここは一体どこなの?」
「えぇ!? 自分達の家が分からないんですか!?」
艦治がまなみへ問い掛けた言葉に、黒ずくめの人物が驚く。
「それと、お前らは一体誰なんだ」
まなみを背中へと隠し、艦治が謎の人物とナギ型ヒューマノイドを睨み付ける。
「俺か? 僕は、私ですよ」
ストールを外し、シルクハットを投げ捨て、サングラスも外した黒ずくめの人物は、艦治と全く同じ顔をしていた。




