255:不確定な未来からの使者
「艦治型ヒューマノイド、という事は、お前もどこかから遠隔操作しているって事か」
自分をモデルとして作成されたヒューマノイドを前にして、未だ警戒を解かない艦治。
そんな艦治の背中で、まなみが口を開いた。
「かんち、その二人はね、未来から遠隔操作してるんだって」
「……未来、から?」
まなみは今朝、艦治が治と共にラスプチニスタンのフェス会場を清めている際に、艦治型ヒューマノイドとナギ型ヒューマノイドを伴った真智から、エイプリルフールのイタズラをすると打ち明けられていた。
エイプリルフールとハロウィンが混ざっているような気がするのは、真智のモデルとなったマチルダが前世の記憶を持つ転生者だからだろう。
「せや、この二人は十八年後から艦治型ヒューマノイドを、二十一年後からナギ型ヒューマノイドを遠隔操作しとる。
相談を受けた時はナギ型やのうてまなみ型を使う言うとったけど、それだけは止めぇ言うて止めたんや。
まなみが攫われた状況でそんな事したら、艦治がキレてオープニングアクトが台無しになったかもやしなぁ」
「オープニングアクト……?」
艦治にのしかかられて床に倒れたままだった真智だが、誰にも声を掛けられなかったので仕方なく自分で起き上がり、経緯を説明し出す。
真智は未来から遠隔操作する二体のヒューマノイドから、太陽系外からの敵性知的生命体が襲来した場合、艦治が地球を守ると伝わるような分かりやすいパフォーマンスをしたいと相談を受けた。
地球を統一するべく動いているのは、外部から飛来するかも知れない敵性知的生命体に備えているという、誰が聞いても分かりやすい動機付けの為だ。
その方が近い将来の地球統治が上手く行く、という未来からの助言となる。
地球人類が一つになるには、地球外の仮想敵対勢力を提示してやるのが手っ取り早い。
その結果が今朝の騒動、第三者から見たら世界最大の音楽フェスにおけるオープニングアクトだった訳である。
「えっ、……と、まなみは知っていた、と」
「うん、ごめんね。
言われた通りに緊迫感を抑えるように棒読みで助けを求めたんだけど、分からないよね。
でも、本気で助けに来てくれて、嬉しかったよ」
ちなみに、艦治達が立っていたステージの上部には、観客達にはこれが茶番であると分かるように『オープニングアクト』と明記されていた。
まなみが黒ずくめの人物に連れ去られ、ナギ型ヒューマノイドと共に艦治がステージを去った後、四人組の女性アイドルによって宇宙に関連した曲のパフォーマンスが行われたので、観客達は非常に盛り上がっていた。
「じゃあ、ここは謎の人工天体、ではなく」
「鳳翔や」
「ナギとナミが敵の生命体と情報戦の最中というのも」
「嘘やな。
艦治から応答があっても応えんように上位者権限で命令してた。
そもそも、ナギとナミは別としてもやな、うちら五体の上位電脳人格が敵襲を黙って見てる訳ないやろ」
ペチンッ!
「あいたっ!? 何すんねんな!!」
「イラっとしたから」
艦治が真智の額にデコピンを食らわせた。真智が涙を浮かべながら、両手で額を押さえている。
謎の人工天体自体が、いつもよりも地球に接近していた鳳翔で、いつもの位置にあったように見える鳳翔は、ただの立体映像だったのだ。
「で、未来から遠隔操作、つまり情報が送られて来ているって事は、無事タイムリープシステムが未来で完成する事が確定したと言う事か」
「さっすがオトン。話が早い」
「パパカッコイー!!」
艦治とまなみ、そして真智のやり取りを見守っていた二体のヒューマノイドが、艦治を褒め称えている。
「で、艦治型ヒューマノイドは未来のこの子という事か……」
艦治がまなみのお腹を優しく撫でる。
「そうなの! 不思議だよねぇ。
あっちの子は、まだこの世に存在してないから存在が不確定なんだって。
性別も口調も態度もバラバラなのもそのせいらしいよ」
今を生きている艦治とまなみ、そしてまなみのお腹ですくすくと育っている胎児。
存在が確定しているのはこの三人のみで、ナギ型ヒューマノイドを遠隔操作している人物については、今この世には存在していない為、存在が不確定である。
様々な可能性が存在する複数の並行世界から、同時にこの現在にアクセスしている為、複数の可能性が同時に存在しているので、性別も口調も態度もそのタイミングによってバラバラなのだ。
「うーん、分かるような分からないような……。
まだ名前すら決めてないのに、オトンだパパだと呼ばれるだなんて思ってもみなかったよ」
「そうだよねぇ。
あ、私の事は絶対にオカンって呼ばせないって今決めたから、かんちもオトン禁止にしたら?」
「オトンって呼ばれるより、まなみがオカンって呼ばれてるのはイラってするかも。
とりあえずどっちも禁止って事で」
今この瞬間に、艦治とまなみの子供達が二人をオトン・オカンと呼ぶ可能性が切り離され、別の平行世界群へと分離した。
「この二人には色々と聞きたい事があるけど、とりあえず……」
艦治はソファーから立ち上がり、艦治型ヒューマノイドとナギ型ヒューマノイドへと両手を広げ、二人を抱き締めた。
「ようこそ、過去へ」
「父上、騙してしまい申し訳ございませんでした」
「若いパパ大好きぃー!」
「ちょっとそこ離れようか」
まなみが艦治の胸からナギ型ヒューマノイドを引き剝がす。
「わぁーん、まなみママが怒ってる、怖いよパパぁー!」
「そのまなみママって何なの? ママじゃダメなの?」
猫のように威嚇しているまなみをまた胸元へと抱き寄せて、ソファーへ座り直す艦治。
「父さん、良く考えてみてよ。
僕はもうすでに母さんのお腹の中にいて、性別は決まってるけど、ナギ型ヒューマノイドを遠隔操作してる人物は、父さんが父親であるという事しか確定してないんだよ」
「しゃーーー!!」
まなみがナギ型ヒューマノイドに対して威嚇して見せる。
「私は父様と母様との子供ですよ」
今このタイミングで受け答えしている人物は、まなみの実子のようだ。
艦治はまなみを宥めつつ、目をぱちくりさせながら考え込む。
「僕が父親である事しか確定していない……?」
「今は仮想空間でしかしてないけど、私が出産したら解禁しても良いよって言ってたでしょ」
まなみが拗ねた表情を浮かべながらも、艦治にヒントを出してやる。
「あぁ、廻か!!」
「「だけだと良いねぇー」」
「子供達、可能性のある女の名前全部言いなさい!!」




