253:開会宣言
四月一日 水曜日
本日四月一日は、かねてより準備を進めていた、ラスプチニスタンにて開催される世界最大の音楽フェス、第一日目だ。
まなみが出産を終えて落ち着くであろう時期に延期しようという案もあったが、まなみの妊娠を公表する良いタイミングでもあるという事で、予定通りこの日から三日間の開催となる。
フェス参加のアーティスト達は、周辺に建てられたホテルに一週間ほど前から宿泊しており、幾度もリハーサルを行っている。
前日もゲネプロと呼ばれる本番さながらの通しリハを各ステージごとに行っており、その様子がYourTunesを含む各種メディアによって全世界へ放映されていた。
午前八時半。複数あるステージの一つ、日本ステージでフェス全体の開会式が始まっている。
艦治とまなみは開会宣言をする為、舞台袖に用意された椅子に座っている。
まなみがいつも以上にそわそわしているので、艦治が背中を優しく撫でてやっている。
「こういう場は久しぶりだから緊張するかも」
「無理しなくて良いからね、何なら鳳翔に戻っても……」
「ううん、大丈夫!
今はかんちの隣にいたいから」
そう話すまなみだが、目線がきょろきょろとせわしなく動き、なかなか艦治と目が合わない。
「さっきは堂々としててすごくカッコ良かったよ。
かんちはもう完璧な皇王陛下だね」
先ほどまで、艦治は治と共にフェス会場の四隅を回って、場を清める儀式を行っていた。
今は着替えて、セミフォーマルのスーツ姿になっており、まなみもゆったりとしたセミフォーマルのドレスに身を包んでいる。
「緊張してない表情を作るのには慣れたかも知れないね」
「私もその表情の作り方、教えてもらっておけば良かったかも」
そんな冗談を言い合っていると、司会進行役の総理大臣ナギも二人を呼び込む声が聞こえた。
「じゃ、行こうか」
「うん」
艦治がまなみの手を取り、ゆっくりとステージへ歩いて行く。
ステージ袖から二人の姿が見えた瞬間、会場が拍手の音に包まれた。
皆がピンと背筋を伸ばし、大日本皇国皇王皇后両陛下に対する敬意を示しているのが伝わって来る。
二人がステージ中央に置かれたスタンドマイクを挟んで立つ。
今回のフェスにおいては、基本的に地球文明が従来から積み重ねて来た技術を使って開催される。
二人がマイクの前に立ったのと同時に、拍手の音が鳴り止み、しんと静かになった。
どんなお言葉が掛けられるのか、皆が二人に注目をしている。
『盛り上がってるかーーー!!』
「「「「「うおぉぉぉぉぉーーー!!」」」」」
艦治から発された、予想外のノリの良い掛け声に即反応する会場。
皆が両手を挙げて叫んでいる。
『この音楽フェスには世界中から色んなアーティストを招待し、世界中の様々な人種の参加者を募った!
今日この日、この場所において、肌の色も、信仰している神も、男も女も関係ない!!
ただ音にノれる奴だけが正義だ!!
分かった奴は声上げろ!!』
「「「「「うおぉぉぉぉぉーーー!!」」」」」
『会場が暖まって来たところで大日本皇国から嬉しいお知らせがある。
まなみが子供を身籠った』
「「「「「うおぉぉぉぉぉーーー!!」」」」」
『性別は、男の子だ!!』
「「「「「うおぉぉぉぉぉーーー!!」」」」」
まなみが会場に向かって、笑顔で手を振ってみせる。
『大日本皇国は安泰だ! と言いたいところだが、皇国の領土は絶賛形成中で、国民は非常に少ない。
国民がいなければ、国なんてものは成り立たない。
今、どのような形で帰化希望者を受け入れるかを考えているところだ。
改めて詳細を発表するから、それまで待っていてほしい』
「「「「「うおぉぉぉぉぉーーー!!」」」」」
『さて、だらだら喋り過ぎて、せっかく暖まって来た会場を冷めさせるような事はしたくない。
そろそろ行こうか!!』
「「「「「うわぁぁぁぁぁーーー!?」」」」」
『…………ん?』
艦治が開会宣言をしようとしたタイミングで、会場にいる参加者達が皆同じ方向を指差して叫び出した。
ステージに立っている艦治からは、屋根が邪魔して角度的に見えない。
≪ナギ、何が起こってるの?≫
電脳通話を掛ける艦治だが、珍しい事にナギからの応答がない。
振り向いて確認すると、ナギは直立不動で目を閉じている。
≪艦治、敵襲や! 鳳翔よりごっつい人工天体が急に現れたんや!!≫
「はぁっ!?」
≪ナギもナミも情報攻撃を受けてて交戦中やねん! 応答がないんはそのせいやで!!≫
敵襲。
艦治が今まで全く予想していなかった事態が起こっている。
ナギが天の川銀河を含む複数の銀河系を支配下に置いているという情報を信じ切っていた為、敵性知的生命体が襲来するなど思いも寄らなかった。
ナギが応答しないので、ワープゲートを開いてまなみを逃がす事も出来ない。
「かんち、あそこから見えるかも」
「まなみはここに居て!」
状況を確認する為、艦治がステージの先端ギリギリまで身を乗り出し、上空を確認する。
満月の十倍ほどのサイズに見える、鳳翔に酷似した人工天体が確認出来た。
(鳳翔はいつもの場所に浮かんでる、やっぱりこれは別の超巨大宇宙船か!?)
「きゃ~~~かんちた~す~け~てぇ~~~」
自分を呼ぶまなみの声に慌てて振り向くと、全身黒ずくめの謎の人物が、まなみをお姫様抱っこで抱えていた。
シルクハットを被りサングラスを掛け、ストールで口元を隠しているので、その表情は窺えない。
「まなみ!?」
艦治が身体強化スキル全開で駆け付けるもむなしく、謎の人物はまなみを抱えたままワープゲートの中に消えてしまった。
「くそっ!! ナギ、どうなってる!? ナミは!?」
呼び掛けに対し、未だに返答がないナギとナミ。
ステージで人前に立つ為に、鳳翔に人型妖精ナギとセカンド支援妖精の白鹿を置いて来たので、翔太へ呼び掛ける事も出来ない。
「翔太様、応答願います!」
ダメ元で叫んでみるが、翔太が現れる事もない。
「どうすれば、どうすれば良い!?」
ステージ上から、上空に出現した人工天体を睨み付ける事しか出来ない。
そんな艦治の前に、ジェットスキーのような空飛ぶ筐体が飛び込んで来た。
「乗って!!」
「ナギ!? 交戦中じゃないのか!?」
空飛ぶジェットスキーを操っていたのは、ナギ型ヒューマノイドだった。
「私はナギじゃない、説明は後! 早く後ろに乗りなさい!!」
ナギではないと名乗るナギ型ヒューマノイド。
誰が遠隔操作しているのか、味方なのか、それともこれも敵の罠なのか。
一瞬考える艦治だが、迷っている時間はないと判断し、ナギ型ヒューマノイドの後ろに乗って、言われるがままにベルトを締めた。
ジェットスキーのシート全体に、透明な保護膜が展開され、空へと浮かび上がる。
「飛ばしますわよ!!」
「どこに行くんだ!?」
「あれだよ!!」
目指すは、出現した人工天体のようだ。
空飛ぶジェットスキーが高度を上げて飛び去ると、日本ステージ一組目の四人組女性アイドルが舞台装置の奈落から飛び出してパフォーマンスを開始したが、艦治の耳には届かなかった。




