魔将軍と寄り道、冒険者ギルドへ2
「ここの、同意書の但し書きの二項目め」
ヴェル君が指で指し示す文章をカークテリア君と覗き込みます。
小っちぇ字!え~と……
「但し、複数名で依頼を完遂した場合、複数名で討伐実績、報酬等自由に配分しても構わないものとする」
私とカークテリア君は顔を見合わせました。
「そして六項目め」
ヴェル君の指の先を目で追います。
「但し、階級変更試験を受ける場合は、下記条件を満たした上に実技試験を受ける事とする」
私とカークテリア君は再び顔を見合わせました。
ヴェル君は二項目目と六項目目を指でトントン叩きながら、ニヤリと笑いながら答えてくれました。
「つまり、一緒に依頼を受けて俺が戦って、カークテリアが窓口で好きな配分で完了手続きをすればいい。上の階級に行かないなら、実技試験は受けなければ問題ない」
な、なんと!?カークテリア君にとっては都合の良い項目が!
「普通は討伐実績や報酬は、独り占めしたいだろう。冒険者として実績を積んで、上の階級に行けば報酬額の高い依頼も増えるしな」
つまりそんな姑息な手で見栄を張る男は、カークテリア君だけだと?
カークテリア君はチラチラとヴェル君を見ています。
「ヴェルヘイムさん、構いませんか?」
ヴェル君はカークテリア君を見つめ返しました。
「構わない、出来ない時は出来る人間に託せばいい。そして自分が出来る事で返せばいい」
ヴェル君!またも名言ですよ!
「うぅっ!ありがとうございますっ!」
イヤ……泣くほどの事だろうか?男二人は意気揚々と登録用紙に記入しています。
ヴェル君とカークテリア君は記入した用紙を持って受付口に並びました。カークテリア君の方は登録が無事終わったようです。次はヴェル君の番です。一応彼女兼まだご主人様?ですし、確認しましょう。
「お名前はヴェルヘイム=デッケ……ルハイン様?」
受付のパライデスさんは、用紙とヴェル君の顔を交互に見ています。
ギルド内がざわつきます。あちこちで「ま、魔将軍?」「本物か!?」と、冒険者の方々から声があがります。
「兄ちゃん、ヴェルヘイム=デッケルハインだって?御大層な名前だね」
「魔将軍様がこんなトコにいないだろ?なぁ?」
岩みたいにごついオジサン達が、ヴェル君に近づいてくるとゲラゲラ笑っております。ヴェル君はそのオジサン達に顔を向けました。
「確かに、名前が一緒だが魔将軍ではないな。ただの軍属だった」
ギルド内が静かになりました。オジサン達は笑顔を引っ込めました。
「受付の方」
「はいぃ!?」
ヴェル君はパライデスさんに呼びかけました。
「壁の依頼書に、ガーベジーデ商会の依頼で魔獣討伐十体とあるが、報酬が他の魔獣討伐より高額だ。おまけに討伐依頼地が、毎年この時期に魔人が数体以上出る所だ。迂闊に行っては危険だ。すぐ精査した方がいい」
パライデスさんはポカンとした後、少々お待ち下さいませ。と言って慌てて席を離れられました。代わりに隣の受付口のお姉様がヴェル君の登録を代わってくれました。
ヴェル君は淡々と受付のお姉様の言う通り、ギルドカードに魔力を注力します。
「はい、魔力波形を登録しました。次は緊急連絡先の方の登録させて頂きます。先程と同じように魔力を入れながら、連絡先にされた方の記憶するお顔などを思い浮かべて下さい」
フワッとヴェル君の魔力が指先から流れます。
正直、このギルドにいる方なら、ヴェル君の魔力がどれほど高密度なのか分かるはずです。佇まいからきっと剣聖の如く鋭い気配を察知されるはずです。
「は……はい!ありがとうございます。これで登録完了です」
すると、ギルドの奥からパライデスさんと、壮年のおじ様が出てこられました。あのおじ様は存じています。カステカート王国の冒険者ギルド、アンカレド支部の支部長さんです。
「おや、ユタカンテ商会のカデリーナさん、こんにちは」
「支部長さんこんにちは。お邪魔しております」
「こちらの方ですか?」
パライデスさんは、ハイと小さく頷かれました。支部長さんはヴェル君を見ました。ヴェル君は少し目を見開きました
「失礼だが、城勤め護衛職のロージ殿の縁者の方でしょうか?」
支部長さんは驚愕の表情を浮かべておられます。
「ロージは私の息子です」
「えぇ!ロージ様のお父様ですか?」
支部長さんは私とヴェル君を交互に見てらっしゃいます。
「護衛の息子とお知り合いだとは……いやはや、どうやらヴェルヘイム=デッケルハイン様本人にお間違えないようですね」
ここでカークテリア君はお仕事があるので商会に戻られるようです。
帰り際に入口付近でヴェル君と何やら喋っています。
そしてヴェル君がカークテリア君の頭をポンポンと撫でました。
きゃあああっ!とギルド内の女性スタッフから悲鳴(歓喜)が聞こえました。
またここでもヴェル爆弾投下ですか……カークテリア君は頷き泣きながら戻って行きました。
どうしたの?カークテリア君それは誤解を生むよ?
あぁ本当に耽美な音楽が聴こえます。あれ?ギルドのお昼をお知らせする音楽でした、失礼。
ヴェル君は何食わぬ顔で戻って来ました。こらぁ~
そして支部長さんが静かに近づいてきました。
「奥でお話されますか?」
はい、いやここでと、ヴェル君が返して話はじめました。
「おそらく、あの手の依頼が近隣諸国に撒かれているはず。魔獣退治と思って行ってみれば、魔人の相手なんて金額が割りに合わない上に下手をすれば殺されてしまう。少なくとも今ここで俺達の話を聞いた冒険者が、知り合いの冒険者に注意喚起して頂けると助かる」
ギルド内に居た冒険者のお兄様達が、なんとなくヴェル君の周りに集まって来ました。
「しかし本当に魔人がでるのでしょうか?」
支部長の言葉に、冒険者のお兄様から同意の声が上がります。
ヴェル君は頷き返し話を始めました。
「ガンドレアのジマーという場所は、グーロデンデの森の隣で人間が森に向かいやすい。つまり森に入りたい人が集まる場所に現状なってしまっている」
「入りたい奴だって!?なんでまた魔素の濃い森になんて」
「そうだぜ!自殺行為だ」
「そう、自殺、自死の為に入る。そして魔素に浸かって魔人になって人を襲うのが目的だ」
ものすごくギルド内が騒がしくなりました。ヴェル君は少し待ってから話を続けました。
「ガンドレアの民ばかりでは無いが、魔人になって世の中に恨みをぶつけてしまいたいという、心の壊れた人が毎年多く集まってくる。俺の居た部隊では事後対処しか出来ないので、国王陛下に何度も見回りと警護をと嘆願したり、直訴したが進展はなかった。とにかく俺の独断でジマーの町で自警団を結成してもらい、森に入りそうな人間を見つけたら保護、取り締まりを強化してもらっていた。それでも毎年被害は出る」
周りのお兄さんたちが声を上げました。
「ガンドレアって自衛が上手く出来てないって言われてるな」
「あそこのギルドは人手が足りなくて困ってるんだってよ」
「俺の知り合いにガンドレア出身のやつがいるが、魔人に村を襲われて、夜逃げ同然で逃げて来たってよ」
あちらこちらで話が上がります。
「ヴェルヘイム様の部隊ではグローデンデの森の巡回は出来なかったのでしょうか?」
支部長のお言葉にヴェル君は苦笑いを浮かべます。
「出来ればしたかったが、ガンドレア帝国内のすべての害獣、魔獣討伐は私達の部隊で処理していた。劣悪な環境で常に殉職者が出るが人員の補充はほとんどない。第二将軍位を拝してはいたが実質三十人程度の部隊の総指揮だ」
「三十人だって!?一国をその人数で補うのは無理だろう!?」
「ひどすぎるぜ、ガンドレアの国王様は何やってんだよ」
ヴェル君は周りの冒険者のお兄様を見回して、溜め息をつかれました。
「とりあえずは俺が補える所は補ってきた。魔人の相手は俺がすべてしてきた」
ひええぇ凄まじい。
周りのお兄様達も驚愕の顔をされてます。もしかしたらこの中の誰かは、魔人と戦闘したことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「俺があの国を出て一年以上は経っている。部下には常に言ってある、義理立てする必要は無い。命を賭してまで救う大義が見つかれなければ自由に生きろと」
「あんたの部下は逃げたのか?」
ヴェル君は問うてきた冒険者のおじさんに顔を向けました。
「俺だって逃げてしまったようなものだ。あいつらだけに頑張れなんて言えない。あの討伐依頼の日付は三ヶ月前だった。おそらく第二部隊がすでに機能しなくなってギルドに回ってきたと思われる」
水を打ったような静けさです。支部長さんが深い溜め息を吐かれました。
「兎に角、ガーベジーデ商会の討伐依頼は依頼内容の虚偽を申し立てて、再精査案件にして各ギルドに通達しておきます。私の一存では決定出来ませんが、ギルド主体で一度、グーロデンデ付近の探索と魔人討伐の依頼を起ち上げれないか上に掛けあってみます。依頼として成立すればSSS階級の三人にお願い出来るかもしれませんしね」
SSS階級の人!噂でしか聞いたことはありませんが闘神のごとき強さだとか、それは心強い!
ヴェル君は怖い顔のまま支部長を見つめています。
「ギルドは各国の内政には不干渉ではないのか?同意書にはそう書いてあったが」
支部長が苦笑されています。
「もちろん、調査させて欲しいとガンドレアに申し入れはしますが、拒否されれば踏み込めませんね」
「拒否するだろうな、結局は手は出せないか」
ヴェル君は顎に手を当てて憂い顔です。お、お美しい。
「おいっあんたやっぱり魔将軍なんだろ?」
ヴェル君は声を掛けてきたゴツイお兄さんを睨みました。
「俺は知らん。誰かが勝手に名乗っているだけだ」
他の冒険者さん達が続けて話し出します。
「でも昨日だっけ?エーマントに魔将軍出たんだろう?じゃあ、あれ誰だよ?」
「魔将軍かどうかは分からんが負けたんだろう?」
「なんでも昨日はうちの王太子殿下が出て、蹴散らしてきたって。知り合いの騎士団の奴の話によると、カステカート側はドラゴンを召喚する術士が、戦闘に参加してたから勝ったとか?」
冒険者のお兄様の話に驚愕しました。
な、なんだってぇ!?話が湾曲して伝わってますよ!幻視の術ですよ!
「あれは召喚じゃない、幻視の術だ」
「はは、やけに言い切るなぁ、まるで見てきたみたい……だな?」
ギルド内がまたも静まり返ります。ヴェル君は術の間違いを指摘しているだけのようですが?
「ドラゴンはもう絶滅した種だ。あれは幻視の術と風魔法と火魔法でそれらしく模したんだ。鳴き声は魔獣の声を記憶術に乗せた。ついでに雷魔法で威嚇しておいたから完璧だ」
ああああ……ヴェル君だめだめ~~皆さんびっくりしてるよ。
支部長までヴェル君を指差していますよっ!
「もしかして、昨日エーマントで王太子殿下と一緒にドラゴンを召喚した術士は」
「ロージの父上も存外しつこいな。あれは幻視の術だ」
ギルド内パニックです。非難じゃなくて歓喜の叫びが多いのは嬉しいですがね。




