魔将軍と寄り道、冒険者ギルドへ1
「もう俺ぇ~カデリーナさんがよく言っている『おひとり様』ってやつなんですから~少しは気を使って下さいよぉ!」
カークテリア君に睨みつけられました。
うぅ恥ずかしい。横でヴェル君も一緒に恥ずかしがっています。
「おやおや~なんですか?もしかして?」
バルミング主任がヴェル君と私の前にやって来ました。ヴェル君に書類を渡しつつ、チラチラとこちらを見ています。な、なんでしょう?
「いいですかカデリーナさん、私は今は親元を離れているあなたの親代わりです。わたしだって目は節穴じゃない。ヴェルヘイム閣下の、人となりだって分かっていますよ?だからこそ言いますよ?まずはキチンと親に紹介してからですよ」
私はジッとバルミング主任の顔を見ました。横でヴェル君の息を飲む音が聞こえました。
「俺、カデリーナさんとお付き合いしています!宜しくお願いします」
やだぁぁぁヴェル君っ?これって恥ずかしいっ!けど嬉しいぃ!
バルミング主任は大きく頷いています。横でカークテリア君も頷いています?おいっ!
「はい、宜しくお願いします。ただ、本物のご両親はなかなか攻めづらい牙城だよぉ?覚悟して。って、あれ?閣下、ギルドカード持ってないのです?公所の託金所はこの国しか使えないし、手数料かかるますがギルドだと全世界共通で使えるし、基本無料だし便利ですよ」
バルミング主任はヴェル君の差し出した書類を見ています。言われたヴェル君はキョトンとしています。
「ヴェル君ヴェル君。そうそう、聞こうと思っていたのですよ〜『ギルドカード』作ったことないのですか?」
ヴェル君は首を横に振っています。
「ギルドの存在は知っているけど、忙しくて登録したことがない」
あ、だよね。十二才から働き詰めだもんね。異世界の日本じゃ労働基準法に抵触する案件だね、これは。
「ええ~ギルドって登録した後、面倒じゃないですか?更新料かかるし」
「カークテリア君は依頼受けたりしないのかい?更新者用の簡単な依頼あるじゃないか?」
バルミング主任の言っておられる、更新者用というのはこういう仕組みです。
とにかく更新料なんて払えねえよ!という方の為に(更新料は木貨五枚)草むしりとギルド前の掃除という簡単依頼が実はあります。ただ木貨五枚(日本円で約五百円)の為に結構な順番待ちだったりします。
時間を取るか木貨五枚を取るか……まあたいていの人は木貨五枚払いますね、うん。
「カークテリア君、お給料少ない?」
「もうっ!そういうのではないです!カデリーナさんまでなんですかっ~草むしりも掃除も木貨五枚払うのもいやなんですよぉ」
「だったら普通の依頼受けたらいいじゃないか?三ヶ月に一度だけでも依頼受けて、成功していれば更新料かからないし」
バルミング主任の言葉に、カークテリア君は真っ赤になったまま固まりました。
何か理由あるのでしょうか?カークテリア君はヴェル君、私、バルミング主任の三人に見つめられて、諦めて口を開きました。
「……ぃから」
「「何?」」
「おれっ、運動神経鈍いからっ!」
ど……同志よっ!私は思わずカークテリア君の両手を掴みました。
「気持ちは分かる、私もよ!」
固い握手をしていましたが、ヴェル君に引っ剥がされました。ヴェル君……なんだようっ。
「依頼ってそりゃ危なくないのもあるけど、薬草採取だって山に入ること多いし、絶対害獣に会わないとは言い切れないでしょ?ましてや魔獣なんかに遭遇しちゃったら、間違いなく俺、逃げ遅れて殺されます」
戦って負けるんじゃなくて、逃げ遅れて殺されるんだ。
同志よ……気持ちは痛いほど分かります。
バルミング主任は呆れ顔です。
「だったら余計に木貨五枚払えばいいじゃないか。更新用依頼で済ませばいいだろう?」
カークテリア君はまだ言い訳を続けております。
「それはまどっ、ギルドの窓口で申請しなきゃだから……その、恰好悪いし」
「どうして?出来ないことを無理にすることは無い。人には向き不向きがある」
ヴェル君っ!なんかカッコいい名言だよ!
「どうして窓口に行くのが恰好悪いのですか?木貨五枚払えばすむじゃないですか?」
私がそうダメ押しで言うとバルミング主任は「あぁもしかして」と呟いた。
「受付の女の子に申請するのが、格好悪いとか?」
カークテリア君は主任の言葉に体を硬直させました。
こ、これはっ!?私は立ち上がりました。ヴェル君とカークテリア君の手を取って!
「さあ、行きましょう!とっとと行きましょう!冒険者ギルドへ」
やって来ました!冒険者ギルド!と言ってもユタカンテ商会のお隣様ですがね。
ギルドの扉は開店時間と同時に大きく開かれております。入りやすいようにですかね?室内は朝のピーク時は過ぎているのか、割とゆったりとした人の混み具合です。
私達は入口から少し横の壁際に移動すると、受付カウンターを注視しました。受付口は五ヶ所あります。内二ヶ所は男性です。残り三ヶ所をよく見ます。
「カークテリア君……どの子ですか?」
「……右端」
なるほど、栗色のボブカットで同じく栗色の瞳の可愛らしい女性です。カークテリア君の好みはあの子なのですね。ヴェル君は壁に張られた『依頼書』を見ています。
「まずギルドカードの登録をするのか?」
「はい、そうですよ」
冒険者ギルドカードは文字通り、冒険者のお仕事には必須の登録カードです。最近では身分証明書代わりになるので、冒険に出ない人も所持する方が増えています。
バルミング主任のおっしゃっていた通り、国経営の託金所にお金を預けると、管理手数料や取引手数料などを取られてしまいますが、ここ冒険者ギルドでは引き出し受け取りは無料、そのかわり一年に一回更新料を払うだけというシステムなのです。
「登録する際に必要なのは登録料とご自身の魔力だけです、魔力波形はひとりひとり波形が違いますからね。カードの盗難、悪用されない為の対策ですね」
私達はまだグダグダ言っているカークテリア君を前に押し出し、右端の受付口に行きました。栗色の髪の女子のが満面の笑顔でお出迎えしてくれます。いや~可愛いですね!ほほぅ、名前はパライデスさんとおっしゃいますか!
「冒険者ギルドにようこそ、ご用件を承ります」
「……ぁの」
モジモジするカークテリア君の背中を、何度もドスドスと小突きます。
「と……登録をおね……がぃします」
「二人分」
カークテリア君の後ろに背後霊のように立ち、指示を出します。受付のパライデスさんは私の声を拾って、魔術紙と魔ペンを二つずつカウンターに出してくれました。
「登録をお二人分ですね。この用紙にお名前と出身地、生まれ年を記入して下さい。そして、ご指定の緊急連絡先に三名まで記入出来ますので、ご入用の方はお名前をご記入下さい。書けましたら受付までお持ち下さい」
ヨロヨロのカークテリア君を伴って、受付口横に設置されている待合室に移動しました。設置されている椅子は銀行や病院にある縦長の椅子ですね。その横に丸いテーブル席があります。私達はテーブル席に座りました。
「もうカークテリア君、ダメダメじゃないですか〜折角話せる機会なのにぃ」
カークテリア君はキッと私を睨み付けました。
「別に頼んでませんよっ!だから嫌だったんだ!あの子に、草むしりしか出来ないのっだっさ!とか、木貨五枚だって~うけるぅ!とか言われるんですよ!?耐えられないですぅ」
泣き崩れて、テーブルに突っ伏してしまったカークテリア君の横でヴェル君は、アリみたいな小さな字で書かれた注意書きと同意書をしっかりと読んでいます。やがてヴェル君はゆっくりと顔を上げました。
「カークテリアの名誉を守れる方法が見つかった」
それどういうこと!?




