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ぺんぎん・らいふ  作者: 朝野りょう
ぺんぎん・らいふ

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7.授業を受けよう(4)

 名前を呼ばず、お前とか、おいと呼ぶことは多い。

 だから三年のクラスになってまだ一カ月であり、午前中の授業の間だけでは、名前を耳にしないのは何もおかしくないのかもしれない。

 残念ながら彼の教科書にも名前が書かれているわけもなく。

 私はまだ彼の名を知らない。

 

 彼が席を離れた今、私は目一杯耳をそばだたせていた。

 あれほどの整った顔をしていて、スタイルも良いいのだから、クラスの女子の誰かは気にしたり話題にしたりしてもおかしくはない。

 お昼休みという絶好のお喋りタイムなのだから。

 

 だが、彼に向けられる視線はなかった。

 彼に席の近い女子も、彼のことは全く眼中にないといった様子だ。

 同じクラスの他のカッコいい男子にはそれとなく視線が向けられているにもかかわらず。

 

 よくよく彼と彼の友人を見れば、彼の友人も彼に負けず劣らずのイケメンだった。しかも彼の友人は外国系で日本人離れした長身である。

 なのに、戸口の二人とも、完全スルー。

 

 よほど性格が悪いのか?

 いや、悪いなら悪いで逆に注意を引くだろう。

 

 可能性として、私の付けている蝶ネクタイのようなものを、彼も身につけているとは考えられないだろうか。

 あれだけイケメンだと、騒がれた過去はあるだろうから。

 人付き合いが苦手だとすれば。

 あり得る。

 

 ふむふむと熱心に戸口を見ていると、地面が揺れた。

 

 ガタガタッ

 

 私の背中側から机が大きく揺らされる事態が発生したらしい。

 

 ほおおお――っと無音の叫び声を上げる私。

 身体が揺れる。崩れる。

 蝶ネクタイを付けているとはいえ、やはりここで叫べないだろうと喉が必死で頑張っていた。

 

「あ、いけね」

「あぶないじゃない、もう」

 

 私の背後で交わされる明るい会話。

 危機感はない。

 

 だが、私は危機に直面していた。

 徐々に前方へと傾いていく上体が止められない。

 下にあるのは固い椅子だ。

 高さはそうなくても、このままでは頭から突っ込むことになってしまう。

 

 身体を起こそうと必死で高速運動する腕。

 つんのめった状態で首をそらし、何とか身体を机の上に引き戻そうとする。

 時間にすれば、あっという間のことだろう。

 必死だった。

 

 ヤバい。

 これは、ヤバい。

 本当にヤバい。

 そう思っているのに、身体は止まらない。

 

 すぐ近くに何人もの同級生がいるというのに。

 私が危機的状況にあるのを視界に納めながら、誰も私を助けようとはしてくれなかった。

 誰も私を見ないということは、こういうこと。

 ああ、なんて寂しいんだ。

 

 私は空中に舞った。

 

 ペンギンは鳥にはなれないのだよ。

 鳥には。

 

 悲しいかな特大の衝撃が襲い、私は意識を失った。

 遠くで叫ぶ声を聞きながら。

 

「佐保―――――っ」


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