8.運動をしよう(1)
「佐保、佐保っ。大丈夫か、佐保?」
「落ちつけ、北見。骨折しているようだが、命に別条はない」
「骨折!?……佐保……。俺が、俺が目を離したばかりに……」
私は骨折したのか。
痛いなと思った。
でも、首の骨を折って死ぬと思ったから、それくらいで済んでよかったのだろう。
私は朦朧とした意識の中でそう思っていた。
「医療キットくらいもっとけよ、北見」
キタミ、それが彼の名前らしい。
彼と一緒に話をしているのは教室の戸口にいた彼の友人だろうか。
「ああ、悪い」
「珍しいな。お前なら何でも準備してると思ってた」
「そうだな。今日はたまたま、忘れたんだ。昨日から、浮かれてたからな」
「このペンギンのせいか? これ、お前の作った疑似体だろ。同調してるよな? 管理局の許可が下りたのか? 確か、最近知り合いになったカラスで同調申請してたって言ってたよな。もう許可がおりたのか」
ペンギン、彼の作った疑似体というのは私のことなのだろう。
同調?
管理局の許可?
よくわからない言葉が飛んでいる。
しかし、最近知り合いになったカラス……。
カラスって知り合いになるものなのか。
知らなかった。
彼は学校に友達が少ないと思っていたが、友達の幅は広いらしい。
このペンギンの中に入るのは、友人のカラスの予定だった?
同じ鳥類で、なぜカラスからペンギンになる必要が?
「あの申請の許可は下りてない。昨日の夕方、勝手に作動したんだ。翻訳機もおかしくなっていたから、何かのトラブルが発生してたんだろう。お前の方は何ともなかったのか?」
「いいや、何もなかった。お前がセットを失敗しただけじゃないのか?」
「俺の失敗なら、同調の許可は下りないだろ。疑似体への同調は、審査が厳しいのに、昨日の申請では一発OKだったからな。よほどマズイことがあったんじゃないか?」
「管理局側がトラブったのか。それは、チャンスだな。俺もなかなかおりない申請許可を催促しておこう」
二人の話はよくわからなかった。
友達同士の話を、他人が理解できるわけがない。
それが私の位置を示すようで、親しくなった気がしていた分、落胆を感じた。
キタミはこのペンギンに知り合ったカラスを同調(?)させて、お喋りしたり食事を囲んだり仲良くしたかったのだろう。
変わった趣味だなとは思うが、人の趣味にケチを付けてはいけない。
管理局とやらは彼の話にはよくでてくるが、公的機関のようなものなのだろう。
ペンギンになった私の家や学校もなんとかしてくれていることもそうだが、同調とやらが厳しい許可制であることから、そう判断した。
確かに、アイドルとかを勝手に自分の作ったぬいぐるみに同調させてしまえたら、ヤバいよね。
そういうのを管理しているのだろう。
彼の場合は、不幸な事故により私が同調してしまった訳だが。
私が元に戻ったら、彼はまた知り合ったカラスの申請許可を待つのだろうか。
私ではないアヒル色のペンギンが、いる。
動けない状態のまま、私は少しだけ、それは嫌だなと思った。




