4.彼の家にお泊りするらしい(2)
「そろそろ飯にしよう。喉も乾いてるよな?」
私を解放すると、彼は部屋を出て行った。
メロンパンを食べた私はあまりお腹は空いていなかったが、確かに喉は渇いている。
私は大人しく待った。
「さあ、飯にしよう」
私はローテーブルに降ろされた。
そこには先程の外出時にスーパーで買ってきたらしい焼肉弁当と麦茶の入ったグラス。
彼の夕飯なのだろう。
そして、私の前には麦茶が入っていると思われる水差しと、皿。
水差しは半透明の筒状の容器の上部にストローみたいなのが付いている。
ドレッシング用の容器だろうか。
おそらく私のためにと彼が買ってきてくれたのだろう。
有難いことだ。
それは、いいのだが。
皿に乗せられているのは全長二十センチほどの青魚。
もちろん、生だ。
しかも鮮度は今一つ。
虚ろな目で私を見ている。
これを食べろ、と?
「ゥアッ?」
ペンギンの本能を信じればこれが美味しいと感じられるはずだ。
ペンギンであれば、そのはずだ。
だが、どうみても生臭そうであり、口に入れたくないと思うのは間違っているだろうか。
ペンギンとして。
ペンギンならば。
ペンギン……
「ああ、皿にあると食べにくいんだな」
彼は自分用の箸で魚をつまみ上げた。
私の嘴の前へと差し出される魚と目が合う。
魚が、迫る。
「頭から食べるんだったよな?」
そうなのだろうと思う。
逆だと魚のヒレが引っかかって飲み込みにくそうだから。
だが、しかし。
私は首が引ける。
食べたくない。
首が引けたまま魚を睨む。
食事を用意しておいてもらって何だが。
それはとても食べたくない。
口に入れたくない。
食事を交換してくれないだろうか。
無理、だよね。
ペンギンになって最大のピンチが訪れていた。
「ほら、佐保。あーん?」
嬉しそうに魚を差し出す彼に、口を開けたら最後な気がした。
本能、本能はまだ機能しないのか?
目の前にごちそうがあるなら、食欲がそそられてもいいのではないのか?
しかし、一向に本能が目覚める気配はなかった。
「佐保?」
観念した私は、目をつぶって口を開けた。
そこにそっと魚が乗せられる。
もちろんすぐに口の中に納まるほど私の口や喉は大きくはない。
魚の身体の半分は嘴からはみ出た状態だ。
はむっと首を動かし魚を奥へと送る。
もわっと口内に広がる生臭さ。
はらわた付き、か!
上を向き、飲み込もうとするが。
いや、無理だ。
これは、無理。絶対ムリ。
後ろに大きくそらした首を、おもいっきり前へと勢いよく振る。
ぺーーーーっ。
私の口から前方へと魚が放たれた。
つまり彼の方へと。
やはり私にペンギンの食生活は無理だったのだ。
私はペンギンならざるものなのだから。




