4.彼の家にお泊りするらしい(3)
食事を用意してくれた彼に向って吐きだすとは、とても許されざる行為だと思う。
しかし、今の私はそれどころではなかった。
生臭いっ。
生臭すぎるのだよ、口が!
ローテーブルの上のグラスを見つけ、がばっと顔を突っ込んだ。
嘴を少し開き、頭をゆすって麦茶で口を洗う。
ジャバジャバジャバッ
ひとしきり洗って満足すると、私は首をあげた。
彼は呆然とした顔で私を見ていた。
うむ。
申し訳ない。
「ゥアアアッ」
私は彼に向って頭を下げた。
彼のTシャツの胸元には魚のためについた汚れがべったりと残されていた。
その魚は、姿が見えない。彼の足か絨毯に落ちてしまったのだろう。
いや、本当に申し訳ない。
ごめんなさい。
「ゥアァ」
何度も頭を下げていると。
「魚、嫌いだったのか」
彼がぽつりと漏らした。
「ごめんな、気がつかなくて。魚じゃなくてメロンパンとポッキーを選ぶくらいだから、わかるべきだったな」
まあ、そうだよね。
私もそう思う。
ペンギンの本能を期待してはいけない。
うん、うん。
「じゃ、生の魚はやめような」
すまないな。
客に対しての心配り、有難く頂戴する。
うん、うん、と彼に頷いて見せた私は、ニョッと彼の前にある焼肉弁当の方へと首を伸ばして口を開けた。
自ら、あーん、である。
さっきの反省はどこにいったのかという行動ではあるが。
焼肉弁当が、本当に美味しそうだったのだ。
妙なものを出されて失敗するよりも、確実に美味しく食べられるだろう物を示すことも必要だと思うわけで。
言葉が通じないなら行動で示す。
これ基本。
「そっか。焼肉弁当なら食えそうか。じゃ、これ半分こしような?」
はじめてスムーズに意思疎通できた気がする。
うんうんと頷きながら、嘴を焼肉に近付けた。
ご飯より、肉がいいな。
なんて素直な私。
彼は大きめの肉を私のくちばしに置いてくれた。
頭を上げてごっくんと飲み込む。
焼肉のたれの味と油の甘味がたまらなーい。
うーっ、満足!
夕飯はやっぱりこうでなくちゃ。
思わずジタバタ羽を動かして味を堪能していると。
「そんなに旨かったか? よかったな」
彼は嬉しそうな顔で私を見ていた。
顔は嬉しそうなのに、少しだけ寂しそうにも感じた。
一人で呟いて、一人でペンギンの相手をしている。
テレビも何もなく、電話で友達と喋っている様子もなかった。
他に誰もいない家。
彼はいつも一人で食事をしているんだろうか。
寂しいなと思った。




