4.彼の家にお泊りするらしい(1)
ぽてぽてと歩き、何をするでもない時を過ごした。
ベッドのシーツや壁が赤く染まっている。
陽が、暮れる。
戻るという言葉を信じて待ってはみたが、今日中にペンギンの姿から元に戻ることはできなさそうである。
さて。
帰るか。
私は廊下へと歩き出した。
首を伸ばしてカチャリとドアノブを下ろした。
キィッと隙間が生じる。
「どこへ行くんだ?」
頭上から声が降ってきた。
彼がいつのまにやら私の背後に音もなく忍び寄っていたらしい。
柔らかい絨毯のせいで足音が聞こえなかっただけなのだろう。
だが、ペンギンであるなら気配を感じる本能が過敏に反応すべきではなかったのか。
これほど近づかれる前に。
うーん。
ペンギンとして……と悩んでいるうちに、彼は私の両脇に手を入れ、ヒョイと持ち上げると、机に向かった。
トンと机の上に私を立たせる。
「お前の家は管理局が対応してるから何の問題もない。お前の姿が元に戻るまでは俺が面倒をみてやるから、心配するな。な?」
管理局?
元に戻るまでは、彼の世話になる?
それを早く言って欲しかったんですがね。
管理局ってのの意味はわからなかったが、何らかの連絡はしてくれているらしい。
言葉が話せないこの状態では、家に帰ったところで動物園に保護されかねないのだ。
だが、そう思ってはいても家は家。
夜になれば帰るところだと思っていた。
帰れると、思っていたのだ。
こんな状況であっても。
シュン。
家には帰れないのか。
「……佐保……」
こんな事態になったことに恨みがましい気持ちがわく。
どうしてこんなことに……と。
目の前にいる何ら支障のなさそうな彼。
どうして彼ではなく私なのかと、怒りや憎しみのような暗い感情が押し寄せる。
喚いてしまいたかった。
だが、そうしたところで事態は変わらない。
そうした感情をわきたたせることは、逆に暗い未来しかないような気がした。
まだ春も早いこの時期では、夜は冷える。
暖かい場所と食料があるだけ良かったのだろう。
「心配するな」
そう言って、彼は私に身体を寄せ、頭と背中を撫でた。
私の視界を大きな身体が遮る。
私をなぐさめようとして。
だが、な。
私は女子高校生なんだよ。
どさくさに紛れて抱きしめようとするんじゃない!
嘴で肩を軽く叩いてやった。
さすがに首近くを刺したりしたら危険なので、突き立てたりはしない。
首のスナップをきかせれば結構な武器になることは体験済みなので、加減はわかっている。
一応、慰めはありがたく受け取っておくよ。




