8.夏休みがやってきた(4)
八坂さんの提案は、おそらく黒沢を忘れないためだ。
そんな回りくどいことをしなくともフレンド登録すればいいのにと思うが、彼女には何かこだわりがあるらしい。
黒沢のフレンド登録勧誘がひどかったからとの可能性も考えられる。
でもフレンド登録をしないで黒沢を忘れない努力をする。
なんだか変な感じだが、協力はしよう。
忘れてしまうと知っていて、いつかそうなると思うのは気持ちのいいものではない。
「キタミの部屋じゃなくて、週に一回は図書館の学習室で勉強して、後でファミレスに寄って帰ろうよ。八坂さんも一緒に。ダメかな、キタミ?」
「いいよ」
キタミの返事に八坂さんはほっとしたようだった。
私への視線が厳しいと思ったのは、何もベタベタポジションだったからではなく、この提案を受け入れてもらえるか心配だったためらしい。
夏休み前の一大決心だったのか。
で……。
「黒沢、くんは、どうする?」
「え?」
黙っているからすっかり影が薄くなっていたぞ、黒沢。
存在が消えかけていたと言っても過言ではない。
「……俺も行く」
遅いよ、黒沢。
八坂さんはきっと黒沢に誘って欲しかったんだろうに。
黒沢は夏休み前のフレンド登録勧誘で、諦めるつもりだったのか。
それならそれで止めはしないが。
「でも、勉強ばっかりじゃなくて、泳ぎにも行きたいね」
「米田さん余裕ねー」
「テスト手応えあったから。でも夏だし、プールにくらい行きたくならない?」
「なるなる。勉強だけじゃなく、気晴らしも必要よね。じゃ、それも予定立てようか」
キタミと黒沢に意見を求めてもこれといってないので、私と八坂さんが主に話をすることになった。
黒沢はチョイモテなりに話に入ってくるべきところだが、いまだ立ち直ってはいない。
四人で勉強するという状況が納得できていないらしい。
毎週火曜日の朝、学習室で席を確保することを申し合わせた。
プールはまた後で日時を決めるとして、今日はお開きとなった。
黒沢は当然のように八坂さんと一緒に帰っていく。
その表情はちょっと険しい。
八坂さんは平然と黒沢の視線を無視していたが、鬱々とした暗雲垂れ込めていた。不穏だ。
「黒沢、くん、機嫌悪そうだったね。喧嘩しないよね?」
「さあな」
全然、気のない返事だ。
「心配じゃない?」
「八坂さんが? 心配しなくても無理にフレンドにしたりはしないだろ」
え、そっち?
黒沢は心配ないのか。あれで……。




