そのじゅういち
「山賊の討伐、ですか?」
「うん。帝都の主街道である黄金の道を通る隊商を襲う山賊が跋扈しているらしい」
白雲の月の16日。シリー小隊長に呼び出された俺は新たな任務をもらっていた。……が、山賊に限らず、戦闘の基本は敵を上回る戦力を用意するのが基本だ。
山賊の数は不明だが、隊商を襲うとなれば20を下ることはないだろう。ならばこちらも30位は兵を出すべきだが……今ここにいるのは、俺と小隊長だけである。騎士団のすべてとは言わなくても、うちの小隊の半数はいないと話にはならないと思うのだが……。
「“上”の意向でね。兵は出せないんだ。魔王領の方面が怪しくてね、山賊程度相手に余分な兵を割きたくないらしい」
「いや、山賊って一人や二人じゃないでしょう? 俺にどうしろっていうんですか」
「君は以前オーガとの戦いで大活躍した経緯があるからね。それに期待をしてるんだよ。後、君一人じゃない。もう一人つけるよ」
オーガの件でこちらに期待が来るのはわかるが、そもそもあの件は公になっていない。仮に知っているものが利用するにしてもごまかしが効きやすいようたくさんの兵と共に運用すると思っていたのだが……。
いくら何でも、一人追加しただけではごまかしは利かない。むしろその一人のせいで動きにくくなる気がする。
「もう一人は“帝研”の所属する魔法使いだよ。フェルナンド・デフォルジュというから、行って会ってくるといい」
“帝研”。正式には、帝国立最高魔法研究所という。前に話した大学と並ぶ魔法に関する2つの最高権威機関のもう片方だ。
大学は民間の組織であり、魔法使いの交流と自由な研究の場として存在している。そして大陸のほとんどの国に一つは支部が存在している。厳密には、魔術師ギルドが、ということになるのだが。
一方帝研は、完全に帝国のための組織で、帝国にとって有益な魔法を研究し、国益を出すための機関だ。大学と比べると研究の方向性が、上の意志で決められるが、その代わりに国税から研究費が払われるため、大学より圧倒的に設備が整っているらしい。
さらに、大学はある程度の能力があれば誰でも入れる一方、帝研はかなりの実力がないと、末端に名を連ねることすら許されない。まあ、上を見れば代々の最高術者は互いに大差がなく、抱えている魔法使いの数は大学の方が圧倒的に多いが、一方で平均を取ると帝研の方が圧倒的に質が高くなる、という関係らしい。
その帝研の魔法使いとコンビを組め、という。ならば、その魔法使いは尋常な実力者ではないのだろう。
――帝国において魔法使いの国益といえば、まず何よりも戦争での武器としての存在だ。戦闘タイプの魔法使いが攻撃魔法を放てば、下位の魔法でも並の兵士数人を一撃で戦闘不能に陥らせることができ、上位の魔法ともなれば百人近くを殺傷できるという。
呪文の詠唱の隙や白兵能力の未熟さなど、万能の兵士でないのは事実だが、一般的に護衛の付いた戦闘魔法使いは単身で兵士10人に相当するというのがこの世界での常識だ。まあ、前世の感覚なら速射性のない移動式大砲と思えばいいのだろう。
特に帝研は、最下位の魔法使いでも魔法使いとしては中の上から上の下に分類される。宮廷魔術師予備軍でもあるのだから当然ではあるが。で、その中の上以上の魔法使いとコンビを組むのであれば、確かに山賊の20や30は敵ではない、ということなのだろう。
「パートナーがいるのは……ここか」
初めて訪れる帝研の一室、第八応接室の扉を見る。この扉の向こうにフェルナンド氏がいる。考えてみれば、お袋が存命のときに何度か世話になった大学の教授以外の、初めての“本物”の魔法使いだ。どんな人だろう、楽しみだ。
「帝国騎士団第3小隊所属、ウィリアム・デア・マイスター、参上しました」
扉をノックし、明ける。するとそこには、
「初めまして。私があなたとコンビを組むことになったフェルナンド・デフォルジュよ。よろしくね」
屈託なく笑う、エルフの美少女が立っていた。




