かんわそのに
さらっと浮かんだので、2時間ほどで連投。
第四帝紀431年 花見の月。栄えある帝国騎士団第三小隊率いる部隊は辺境のハーネス村へと演習に赴いた。本来、部隊の目的はゴブリンの殲滅であったがそこにオーガが3体あらわれ交戦。5人の死者を出したものの殲滅に成功した。
もともと第三小隊は、騎士とはいえ門閥貴族の子息ではなく、主に平民上がりの新兵が集まる部隊であった。ゆえに多くの貴族がこの部隊を馬鹿にしていたのではあるが、今回の事件が宮廷に広まると、さすがにそのような口はきけなくなってしまった。オーガの強さは、多くの物語で語られており、オーガ3体を50人がかりで仕留め、しかも犠牲者がたったの5人というのは決してバカにできる戦果ではないためだ。
無論、認めない者もいる。主に門閥貴族の子息、というだけで騎士団の地位を得た若者の間では、オーガが出たなど嘘ではないのか、ゴブリンごときに死者が出たからそのような妄言を吐いたのではないか、などの自分たちのプライドに都合のいい噂が広まっていたが、事実としてオーガの首級は持ち帰られていたので、それを見れば否定できるものでもなかった。
帝国の騎士団と兵士が強大な魔物であるオーガから善良な村人を守った、というのは、間違いなく美談である。たとえ門閥貴族や皇室が、彼らを搾取の対象としか見ていなかったとしても、それを守ったことは彼らにとっても都合の良い話であった。……革命という想像したくもない問題が、わずかであれど遠ざかるのだから。
そのような理由もあり、第三小隊には貴族と皇室から称賛の嵐が降り注いだ。盛大な式典が催され、全員に帝国翡翠梟雄勲章が授与された。戦死者に対しても盛大な国葬が営まれ、名誉の戦士として階級が特進された。
一方、オーガ2体を一人で倒したウィリアム・デア・マイスターに対しては、当人が望んだこともあり、他の騎士たちと協力し、オーガの一体にとどめを刺し、更にもう一体に対しては致命的な隙を作るという功績を上げた、という形に報告が抑えられ、その功績を評価されさらに帝国交剣勲章を、それも皇帝手ずから授与された。
帝国の勲章とは、常に勲章の価値により勲章と同時に報奨金が授与されるものである。更にそれが帝国最大の権威の持ち主である皇帝自らの手で授与されることの名誉は推して知るべしである。
その観点から言えば、ウィリアムは報告された功績にふさわしい報奨金をもらったと言えるが、実際に上げた功績と比べてどうかといえば、疑問が残るところだろう。
尤も、過少報告を望んだのは本人なので、文句を言うものもいなかったが。
広い部屋に二人の男が向かい合って座っている。一人は豪奢な服を着た壮年の貴族であり、もう一人は老境に差し掛かった男だ。
「それで、卿は今回の事件、どう見る? というか、平民上がりで若手の騎士と、平民でしかない兵士のみでオーガを3対も倒せたなど、どのような魔法を使ったのかね?」
貴族が男へと話しかける。話題はもちろん、先ほど叙勲式が行われたオーガの件である。
「ええ。実はあの事件には、公にされていない……当事者しか知らない秘密がございます」
「ほう。やはりか。怪しいと思っていたのだ。で、いったいどこの誰に協力を要請したのだ? 下賤な若造どものみで解決できる事件ではないだろう」
捻じ曲がったプライドだけを抱えた門閥貴族であれば当然の発想。また、現実として冷静に考えれば思い至って無理のない結論。だが、男はそれを明快に否定した。
「いえ、閣下のご想像とは真逆の秘密です。第三小隊は外部の手を煩わせることなくオーガを打倒しました。むしろ、内2体をたった一人の少年が倒したのです」
「何……?」
貴族は当然のように、それを信じられなかった。オーガとは単体で騎士10人に匹敵する化け物である。ゆえに新兵ぞろいの第三小隊では倍以上の犠牲者が出ていたはずだと信じたのだ。そのような状況で、単身でオーガを2対もしとめるようなものがいると、誰が信じよう。
「それはまさか……」
「ええ。勲一等とされたウィリアム・デア・マイスターです」
「だが、何故それを報告しない! それだけの功績、事実となればどれだけの褒章を得られたことか……!」
「それで目をつけられ、使い潰されることを恐れているようでした。……恐らく、政争に巻き込まれるのを恐れているのではないかと。強すぎる力を持つものが目立ち過ぎれば、その力を怯えるものは暗殺を試みるでしょうから」
「では、彼は自ら褒章を辞退したと?」
「ええ。そうでなければあのような形にはならないでしょう」
男は淡々と自分が見聞きした事実を伝える。目の前の男がそれをどう利用するかは関心の外にある。彼の忠誠は、この貴族に嘘をつかず、知りうる限りのすべてを報告する点にのみ存在するのだから。
「……では、表だってその少年を取り込むのは難しいな。今しばらくは通常の任務を与え……うまく表ざたにせずに済むよう工作をしたうえで利用するべきか……」
ゆえに、彼が未だ幼いと言っていい歳の英雄をどう利用しようとしていても、それを諌めることもなければ、誰かに――当のウィリアムに対しても――伝える気もなかった。
やがて、貴族は自分の考えがまとまったのだろう。目の前で報告をしていた男の存在を思い出したようであった。
「ご苦労であった。卿の報告、とても役に立ちそうだ。これからも私のために尽くしてくれ……フィンケ小隊長」
「無論にございます、デルムリット伯爵。あなたのご推薦で、私は騎士となれ、更に小隊長になれたのですから」




