そのはち
「おう、坊主共、二人して何騒いでんだ?」
せっかくの温泉。ゆったりとくつろぎいでいるみんなにとって、ぎゃいぎゃい騒いでじゃれあっている俺たちは迷惑だったのだろう。一緒に入っているおっさん兵士――名前知らないな、まあいいやおっさんで――が話しかけてきた。今回の部隊は新兵が多いにもかかわらず、珍しい存在だ。
いや、注意をしに来たにしては怒ってる顔ではない。どっちかというと好奇心いっぱいという感じだ。
「いや、こいつが実は男色家なんじゃないかって話を」
「だからチゲーよ! 俺はノーマルだっつの!」
いきなりあほなことを人様に言いふらすモデストに、即座に訂正を加える。
前世では大してもてなかったが、今世では親父とお袋の血か、あるいは日々の訓練のおかげか、美男子ではないものの決して悪くは無い顔立ちに、鍛え上げた筋肉と高身長、と、過剰評価かもしれないが条件は悪くないはずなのだ。……無いとは思うが、これで本当に世間様からゲイだと思われて、女の子からはもてず、男に求愛されるようになった日には自殺しかねない。
「がっはっは! 楽しそうで何よりだ。で、坊主……確か、オーガを一人でぶちのめした英雄様だったよな? あれほどの腕ならさぞ女の子にもてるだろう? その立派なものでいったい何人の女の子をヒィヒィ言わせてきたんだ?」
「ぶはぶぅ!?」
もし、何か口に含んでいたら、俺は間違いなく漫画のごとく噴出していただろう。いや何もなくてもいろいろ噴出したけど。いきなり何を言うのだろうか、このおっさんは。
「……」
無言で視線をそらす。それを見て色々理解されたようだ。
「おいおい、そんだけ立派なガタイしておいて、まだ女も知らねえのかよ。ったくしゃーねーなあ。……よし、レガルトで任務後の休暇が与えられるだろうから、その時にでも娼館に連れて行ってやるよ」
「え? いやいやいや。それはさすがに早いというかなんというか……」
「は? 何言ってるんだ坊主? 男たるものなんでも経験だろ。第一結婚した時にお前が未経験だったら嫁さんとどうやって初夜を超す気だ。安心しろ。実はレガルトは俺の故郷でな。ちょくちょく里帰りしてるからいい店も知ってるのさ。今回は俺様お勧めの店を紹介してやらあ」
がっはっはと笑うおっさんに、俺も俺もと頼み込むモデスト。……前世の感覚が残ってるせいか、そーゆーのはもっと大人になってから、という気がしてたんだが、このおっさんの基準だと遅い方らしい。マジか。
というか……
「つかおっさん。おっさんどう見ても30過ぎだけど、奥さんはいいのかよ」
教会で学んだ倫理観によると、男は結婚したら娼婦なんかは買わないものって言われている。一夫多妻の世界だが、だからこそ妻にしない女性には手を出さないのが男の誠実さというものらしいのだが……。
「ん? ああ、俺は独身だから問題ねーよ。結婚する気にはなれなかったしな」
まあモテもしなかったんだが、と自重するおっさん。それはまた、なんというか……
「気にすんな、これはこれで遊びたい放題で楽しんでるからよ。それよりお前らはどんな感じの娘がこのみなんだ?」
結局。この後話を聞きつけてきた独身兵士たちの後押しもあり、みんなでこのおっさんおすすめの娼館に繰り出すことになったのであった。
「ただいま~」
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
半月ぶりに我が家に帰ってきた俺を迎えてくれたのは、相変わらず愛くるしい我が妹であった。いつものようにアリスは俺に抱き付き……そのまま眉をしかめた。
「……香水の匂いがする……」
え゛。そりゃあ確かに、人生初体験的なことはしてきたし、そっちのお姉さんは香水つけてたけど、もう三日も前の事だ。初めてのせいか止まらず完徹しちまったとはいえ、いまだに臭いが残ってるとは思えないんだけど……。
こうして初体験があっさり妹にばれ、三日ほど口をきいてもらえなかったのは……別の話である。とほほ。




