そのご
オーガを倒して周囲を見ると、最後のオーガ相手にみんな奮闘している。モデスト達騎士組はうまく連携をとり、オーガの攻撃対象を分散させつつ囮をこなしている。その間隙を縫い飛来する矢は、致命傷にならずとも流血と疲労を誘う。遠からず倒されるだろう。……ゴブリンが邪魔をしなければ。
ゴブリンが弓兵に散発的に攻撃を仕掛けるせいで、その対処に逐われ、オーガへの攻撃が散漫になってる。こっちの手は空いたし、オーガ退治に加わるよりはゴブリンを殲滅しておきますかね。
ゴブリン自体はたいして強くなく、魔力をほとんど使い切ってはいたものの、人並みの身体能力強化をする程度の魔力は残っていたため、それを用いて2割の強化をすれば初撃必殺が可能だった。そしてゴブリンを倒すと、その分ゴブリンに対処していた兵士がオーガに攻撃できるようになり、効率が加速度的に上昇していく。
結局、最後のゴブリンを倒したころには、最後のオーガも兵士たちの弓によって倒されていたのであった。……死因は、出血死だな、これ。
それにしても、第3小隊は新兵と未熟兵の集まりではなかったのだろうか? 最初こそオーガに5人も殺されたが、俺が2匹を相手取ってからはなんだかんだと言ってさしたる被害もなく倒しているように見える。数が圧倒的であったからなのか、実は練度が高かったのか……。
「よくやってくれました、マイスター卿。大金星ですね」
「あ、フィンケ隊長。いえ、まあ。帝国に仕える騎士としてできることをしただけです。それと、できればオーガを一人で2匹斃した件は内密にお願いしたいのですが……」
勝利の歓声を上げる皆を背に俺をねぎらってくれるフィンケ小隊長に返す。功績をあげて成り上がるのは嬉しいが、いつの時代、どんな世界でも、突出した一個人が急激に成り上がるのは大きなリスクがある。
誰だって、既得権益を侵されればいい気はしない。当然、排除の方向に向かうだろう。こちらに彼らの既得権益を侵す気があるかどうかは関係がない。それができる能力がある、と思えばたいていの人間は不安を抱くものなのだ。と、前世で読んだ小説にあった。
仮にそうならなかったとしても、単体で騎士10人と渡り合う怪物を、不意打ちがあったとはいえ1人で2匹も倒した、などと知られれば、当然そんな戦闘兵器を利用する野心に駆られるものが出てくるだろう。それが何の権力もない末端貴族であればまだいい。上が押さえてくれる。だが、それが上層部だったら?
そうなったとき、彼らの権力に屈せず、自分が納得できる人生を歩める自信はない。
なので、あくまで第3小隊がフィンケ隊長の指揮の下、一致団結してオーガを倒した、ということにしておきたいのだが……。
「なるほど。マイスター卿の意見はわからないわけではありません。隊のみなには私から口止めをしておきましょう。
しかし、信賞必罰は武門の依って立つところ。今回の件でマイスター卿の功績を最も高いものと報告しないわけにはいきません。ですので、村に戻ったら適当に口裏を合わせるとしましょう。どの程度の事実をあなたの功績として記録に残すのか、ね」
「ありがとうございます」
さすがフィンケ隊長、話が分かる。




