そのいち
「実戦演習?」
夕食の時に今日小隊長から告げられた話をすると、アリスが聞き返してきた。
「そ。騎士になって早1ヶ月、基礎訓練も様になってきたし、そろそろ実戦を経験してみようってことらしいよ」
「実戦と言うことは……ハーネス村か」
「え? 父さんなんで知ってるんだ?」
「お父さん、ハーネス村ってどんな村?」
まさか、親父が今回の任務を知ってたとは。アリスはアリスで俺が行く場所が気になるらしい。
「ああ。あの陳情を受け取ったのは俺だったからな。まあ中身は読んでないから、ハーネス村ってことしか知らないんだが。
アリス、ハーネス村というのは、ここから一週間ほど行ったところにある小さな村だ。以前任務で寄った時は天然の温泉があったな。とはいえ、それ以外は取り立てて何もないのどかな村だ。恐らく訓練後の一時休暇はハーネス村ではなく手前の都市レガルトで与えられるだろう。
ところで、実地演習は何を?」
ほほう。温泉村なのか。転生してから温泉に入ったことはないので楽しみだ。
「なんでもゴブリンが近くの森に住み着いて、農作物を盗んでいくらしいよ。数が多くて自警団じゃ対処しきれないんだってさ」
ゴブリンとは身長1メルト程の亜人で、最も代表的な妖魔の一つだ。比較的好戦的だか小心者で、自分が優位にあると判断するとすぐに襲いかかってくるが、強い妖魔には媚びへつらい、他の亜人には逃げるか隠れて盗みをするか、という態度をとる。
その戦闘力はと言うと、一般的には力は一般的な成人男性に僅かに劣るが俊敏で、素人がタイマンを張るのは割と無謀。ただしきちんと訓練を積んだ兵士にとっては雑魚で、実地訓練には申し分ない相手と言える。
……と、思われているが、ゴブリンは原始的ながらも役割が分担されたコミュニティーを作る文化を持つ。彼らは農耕こそせず、狩りや盗みで食料を得るが、所謂“一般的なゴブリン”は、その狩人に当たり、戦士階級ではないのだ。
実際には戦士階級以上のゴブリンがいる部族は少数で、総数が100匹を超える大部族にしか見られない。しかし、狩人階級でも人間の素人より強いことから想像できるように、戦士階級ともなると、ベテラン戦士を上回る戦闘力を保有する。特に大部族の導き手である祈祷師は魔法も使うし、ゴブリン王ともなれば精鋭の騎士が数人がかりで挑む強敵となる。
まあ、今回のケースではそこまで規模の大きな部族ではないみたいだし、問題は無いだろうけど。
「それじゃ行ってきます」
「ああ、気をつけてな」
「無理しちゃだめだよ、お兄ちゃん」
演習当日。親父とアリスに見送られて騎士団本部へと向かう。
ああ、なんか温泉の事しか考えられないくらい楽しみだ――!




