そのじゅうさん
そして叙任式当日。予定時刻の30分ほど前には、俺は皇宮に到着していた。無論、式典の準備や心構えをするためだ。式典の時間に間に合えばいい、とは言われていたが、そこは元日本人の悲しさ。十分に余裕を持っておきたかったのだ。
目の前にそびえる皇宮は、まさに王様の城、というイメージを形にした存在であった。形も典型的だし、何よりでかい。帝都でこれ以上に大きな建物はないのではないだろうか?
後日知ったことだが、この帝国には、皇宮より高さのある建物を建ててはならず、皇宮の敷地面積より広い土地を個人が所有してはならない、という法律があるらしい。
「しかし、皇帝陛下か……どんな方なんだろうな」
現在の皇帝陛下は昨年流行病で死んでしまったホルスト・フォン・ドルメキア3世の息子であるベアトリーセ・フォン・ドルメキア6世、御年36歳だ。彼について、あまりいい噂は聞かない。皇太子であった当時から美食と美女をむさぼることに精を出していたとか、気に入らないものをすぐに奴隷に落としたとか。
事実、ベアトリーセ陛下が帝位についてから早1年、国政の中枢の面子が大幅に入れ替わっているらしい。そしてその結果なのか、だんだんと国の経済とかは悪くなっている気がする。税も増えたし。昔はあまり見なかった物乞いもよく見るようになった。まあ、この辺は年を取って行動範囲が増えたせいかもしれないけど。
そんなわけで、これからはじめてお目にかかる皇帝陛下に期待半分心配半分な気持ちのまま、受付の人に案内された控室で待ち続けることになるのであった。
「それではこれより、第431回、ドルメキア帝国新任騎士の叙任式を始める!」
式部官の宣誓により叙任式は始まった。
「大陸全土の正当なる支配者、神々の代理人として世界に法を遍く敷きたもう神聖不可侵なる皇帝陛下、ベアトリーセ・フォン・ドルメキア6世様御入来!」
楽団が荘厳な音楽を奏で、式典参加者は一斉に頭を下げる。その頭を上げた時には玉座に1人の男が座っていた。
……まあ、見てがっかり。禿げてこそいないが、なんだあの豪奢な服着たデブ。ラードでも着飾らせたのか?
皇帝の子どもたちは美男美女揃いだと街では言われているが、これ絶対情報操作だろ。
こうして叙任式は始まった。とは言え、今年騎士になる8人が皇帝陛下に任じられるだけなのだが。勿論ベンノもいる。
次々に名前が呼ばれ、皇帝に叙任されていく。儀式自体は一分もかからないのだが。
「ウィリアム・マイスター殿!」
俺の番が来た。式部官の声に従い、玉座の前まで進み跪く。
頭を下げる俺に、皇帝は一振りの長剣を掲げ、剣の腹で肩を叩く。まずは右に、そして左に。
「聖スペビアと聖イーラの御名の下、汝を帝国騎士に任じる。汝、強く、正しく、誠実であれ」
皇帝の宣誓が終わると、皇帝は肩から剣を外しそのまま剣を横にしてこちらに差し出す。
俺は恭しく剣を受け取り、皇帝に刃を向けぬよう切っ先を上に向け、柄を握る。自然と騎士らしく剣を掲げる形となった。
「我が身は偉大なる我が皇帝ベアトリーセ様の忠実なる刃。この身滅びるまで変わらぬ忠誠を誓います」
俺の宣誓に頷いた皇帝は軽く下がれと合図をし、俺はそれに従った。
他の騎士の叙任も無事終わり、最後に皇帝陛下からの御言葉を頂くことになった。
「そなた達の勇名は朕も耳にしておる」
一人称「朕」かよ!?
「そなた達の力、朕の為に尽くしてくれる事を切に期待するぞ。朕は寛大故、成果には十分に報いようぞ」
――いや、俺は出世とかはしたいけど、あんたじゃなくて民の為に働きたいです。




