そのきゅう
結局、意識が戻ってからさらに2日ほど入院する羽目になった。明日退院予定だ。だが、その前に俺に見舞いに来た人がいる。
そいつは初老といった風情の、仕立ての良い服を着た紳士だった。ご丁寧に果物まで持ってきてくれた。……誰だ?
「お初にお目にかかります。私はターニア侯爵家に仕えております執事のアルフレッド・サントリアと申します。本日はわが主クリストフ・フォン・ターニア侯爵の代理で参りました」
……ベンノの親父の代理? 確かに確執はあったが、それだけのためにわざわざ使いをよこすとは思えないけど……。
「先日のベンノ・ドゥ・ターニア子爵との戦い、誠に見事でございました。侯爵はあの戦いをご覧になり、ウィリアム様の腕前を非常に高く評価しております。
もし、ウィリアム様が騎士になることをお望みであれば、侯爵は推薦状を出してもよいと仰せになり、本日はウィリアム様のお気持ちを窺いに参った次第でございます」
……怪しい。めちゃくちゃ怪しい。
なんだって息子のけんか相手、それも貴族のメンツを潰しかねない接戦を演じた俺にオファーが来るのか。というか、あの試合での病とか、体調悪くなる直前の“チクリ”とか、こいつらの差し金だったりしないよな……?
なんかすごい疑心暗鬼になっているが、この仮説――と呼ぶほどの根拠はない、妄想――が正しかった場合、考えられるのは……面子のために不法行為をしたことの詫び? そんな殊勝な相手じゃないか。受けたら不正に噛んで同罪……いや知らされてない以上善意の第三者だし。……そうすると、素直に優勝した息子と唯一接戦を演じ、不正行為まで行う必要があった相手を手元に確保しておきたい、というところだろうか……?
さて、俺はどうするべきか。
……考えるまでもないな。受けて損がない。
もちろん、相手があのベンノの親父、というのは感情的に思うところがあるが、別に推薦をしたからと言って必ず推薦者の部下にならないといけないわけではなく、恩を着せただけに過ぎない。となると、不正の事がある以上、これは恩というより向こうの誠意として受け取ればいいだけだし、侯爵の推薦ともなれば、影響力も多いはずだ。まあ、あたりさわりのない要望なら素直に叶えてやってもいい。
「試合とはいえ侯爵のご子息を相手取り剣を向け、あまつさえ怪我まで負わせた私にそれほどのご厚意、痛み入ります。
私も騎士になるべく大会に出場しており、侯爵の推薦ともなれば心強い限りでございます。未熟な身ではありますが、ご恩に報いるべく微力を尽くしますので、推薦の件、なにとぞよろしくお願いいたします」
まあ、そうは思っても、何事にも形式というのもがあるので、ここは素直に頭を下げてお願いした。
「かしこまりました。それでは侯爵にはそのようにお伝えしましょう。明日の昼には推薦状が出来上がっておりますので、夕方までには取りに来てくださいませ」
「わかりました。必ず」
……よしっ、これで俺の成り上がり物語は一歩踏み出したぞ……!




