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てきとー転生英雄譚  作者: 腐れ紳士
きしのしょう
35/56

そのはち

 ベンノを追い詰め、決着となるであろう一撃を叩き込もうとした瞬間であった。


「!?」


 首筋にチクリとした感触。それに気を取られ、攻撃のタイミングが外れる。それだけではなく、何やら悪寒がする。ベンノが何かをたくらんでいて、その気配を感じ取ったのか。

 悪寒を予感と信じ、いったん後退し剣を構えなおす。当然ながらベンノも体勢を立て直すが仕方がない。


 ――結果から言うのであれば、この時悪寒を無視して無理やり倒しに行くべきだったのだ。だが、悪寒を直観と誤解したのが致命的であった。


 こちらが引いたことをどう思ったのか。何やら疑問の色を浮かべているようにも見えるが、よくわからない。疲労がたまったのだろうか。体が重い。そんな軟な鍛え方はしてなかったはずだが、まれにみる強敵に余計な緊張をしているのだろうか?

 ややあって、ベンノが攻めてきた。盾で威圧し、隙あらば剣を繰り出す騎士の基本戦術。当然、応戦するが、思ったように体が動かない。……おかしい。力が入らない。悪寒が全然やまないし、目も霞んできた気がする。まるでインフルエンザにでも罹ったようだ。

 こちらの不調を敏感に感じ取ったのか、ベンノは嗜虐的な表情を浮かべ、苛烈に攻めてきた。俺はもう防戦に専念することしかできない。


「はっ! 体調の管理もできないとは戦士失格だな! このまま無様に死にやがれ、平民!」


 今まで不利だったのが嘘であったかのように、勢いづくベンノ。いや、目の前の敗北に絶望しかけてた表情からここまで変わられると、いっそ清々しいかもしれない、いやそんなことはないか。

 足から力が抜け、その場に倒れこむ。その隙を逃さず大上段から喉元めがけて剣を振り下ろすベンノ。反射的に剣を構えるが……これは、死んだかな。


 次の瞬間、視界は完全に暗転し、意識は遠い闇の中に放り出される。その瞬間、どこかで大切な誰かの悲鳴が聞こえた気がした。




「……」


 目が覚めると、そこは知らないベッドの上だった。

 全身にうまく力が入らないが、別にまた生まれ変わったとかそういうことではない模様。手を掲げ、握ったり開いたりしてみ――


「お兄ちゃん! よかったぁ!」


 ――アリスに抱き着かれた。ずっと看病していてくれたようだ。

 何があったかよく理解できないけど、どうやら俺の無事を喜んでいることだけはわかる。けどアリス。さすがに半裸の男に抱き着くのはちょっとはしたないぞ。

 現在の俺の格好は、パンツ一枚。別におかしな話ではなく、この世界、寝間着がなく寝るときはみんな下着か裸なのだ。

 詳しいことはわからないが、この世界はどうやら前世に比べると農業技術がとても低い模様で、まず食料となる麦や野菜類を育てなくては話にならない。そうすると、今度は綿などを栽培をする余裕がなくなってしまう。無論、前世ほどに農業技術があれば問題ないのであろうが、こちらで綿の比率を増やすとたちまち食糧難になるようだ。

 当然、そうなれば衣服の量が減る。い服の量が減れば、部屋着などを無駄に作って外出時の服が無くなる、などということにならないよう、部屋着なんて概念は吹っ飛ぶ。結果として寝巻もなくなるわけだ。外出着のままで寝れば汚れるので、寝るときは下着にせざるを得ない、というわけらしい。


「アリス、わかった、わかったから離れてくれ。お前10歳にもなって下着姿の男に抱き着くのはまずいだろ」

「お兄ちゃんにしかやらないもん!」


 いや、そういう問題じゃないですマイシスタ。


「おいおい、お父さんが倒れたら抱き着いてくれないのか?」


 あ、親父。いたのか。


「ウィル、よく死ななかったな。あまり心配をかけるものじゃないぞ」

「は? 俺死にかけてたのか? ……ってそうか。ベンノとの試合中だったもんな。そりゃあひん死の大怪我とか負ったりもするか」

「いや、そうじゃない。というかお前、自覚なかったのか?」


 親父の話によると、ベンノの一撃は辛うじて防いだものの、そのまま俺は倒れて意識を失ったらしい。その時点で審判が決着を宣言し、即座に俺は医務室に運ばれた。……さすがのベンノも、完全に倒れた相手に暴力を振るったりはしなかったようだ。まあそこまでやったら故意の暴行罪適用されるしな。

 医者の見立てによると、感染性は低いが性質の悪い病にかかっていたようで、三日三晩昏睡状態だったらしい。致死率八割の病に打ち勝つとは俺の体力はかなりのものだと医者も言っていたそうな。って、それ馬上試合(トーナメント)終わってるじゃん。


「大会はどうなったんだ?」

「そちらはターニア子爵が優勝した」


 ですよねー。まあいつも俺との戦いでそれなりに怪我とかしたらしいけど、試合後に治癒士に治療させて問題なく優勝したらしい。さすが侯爵家、腕のいい治癒士を雇ってんだろうな。


「それにしても、一回戦敗退かぁ。残念だな」

「馬鹿を言え、倒れるような病を負ったまま試合に出て、生きてるだけ僥倖だ。それに、倒れる直前まではお前が押していたのだしな」


 まーそうなんだが。……それにしても、俺は本当に病気だったのか? 上級貴族の息子を公衆の面前で倒す直前で病が発祥し動けなくなって逆転された俺。どうにもタイミングが良すぎる気がするが……はてさて?

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