そのなな
「それでは! これより帝国民間馬上試合、第一回戦第54試合を始めます!」
司会のアナウンスが響く。ついに俺の出番だ。……うん。とりあえず現状はそこまで強い奴いなかった。
「東の門! こちら本大会始まって以来の異例の事態となります! 門閥貴族の御曹司が下々の大会に参加しました! ベンノ・ドゥ・ターニア選手!」
司会の説明に観客のどよめきが広がる。その一事を見ても奴の参加がどれほど異例の事態かがわかる。そのどよめきを声に、ベンノは威風堂々と入場してきた。
「続きまして西の門! ウィリアム・マイスター選手!」
……まあ、親父が平民から騎士になったというのは多くはない事例だが、実のところ、帝都帝国騎士団の総数はおよそ100人。そして毎年10人前後が入団するので、毎年一人くらいは成り上がり組がいるのである。残りは推薦を得た下級貴族の子弟組だ。ちなみに、この数に門閥貴族のコネで騎士となった連中は含まれない。
そんなわけで、特にコメントもなかったのであろう名乗りに応え、俺も入場する。ベンノの立場が立場なので、観客も声援を飛ばす様子はない。まあしょうがないわな。
「それではよろしいですか? あらかじめ登録した模擬戦用の装備と素手のみ使用が許されます。魔法を使うと即失格となりますので気を付けてください」
審判のマニュアルじみた注意を聞き流し、ベンノと向かい合う。
「一度聞いてみたかったんだけどさ。あんた、貴族様だろ? なんでこんな平民の大会に参加してるんだ? 騎士になりたけりゃ親に頼めよ」
「ふん。どこまでも無礼な奴だ。だがいい、答えてやろう。
確かに俺は貴様らと違い、貴き血を引く貴族だ。貴様ら平民とは生まれながらに別の次元を生きる身だ。ゆえ、俺が騎士になることはそうと望めば確定された事実である。だが、貴様らの中にはそれを“実力がないのに”と侮辱するものがいることを俺は知っている。貴き血を引くものにその言いぐさは、失笑しかわかない見当はずれな言い草だが……侮辱をそのまま看過する気はない。
ゆえにこの大会に参加した。この俺が優勝し、下らぬ誤解に惑わされた貴様らの蒙を拓いてやる」
……なんと言うか。そこまで強い自負となると、それなりに天晴とすら思えてくるから不思議だ。まあ、負けてやる気はないし、人のかわいい妹に強姦宣言したこのロリコンを許す気はないが。
「待て。俺はロリコンじゃねえ」
何をいまさら。昨日のセリフのどこがロリコンじゃないというのか。
「馬鹿を言え。俺はノーマルだ。だが、餓鬼を試したことがないから興味があるだけだ」
「OK。殺す」
加速度的に俺とベンノの間に殺意が高まる。もはや試合というより決闘の雰囲気だ。間に挟まれて真っ青になってる審判さん。ごめん。
「は、始めっ!」
ちょっと上擦った開始宣言。俺は模擬剣を正眼に構えて様子見の体勢。対するベンノは……
「おっっらぁ!!」
左半身をこちらに晒し、構えた盾で体を隠す騎士剣術の基本体勢から、体当たりを仕掛けてきた。
「うわっと」
そのまま立っていたら引き潰されそうなので回避。避けた先はベンノの右手側。これでこちらの剣を盾では防げない。
だが敵もさるもの、体重の乗った両手剣の一撃を、片手剣で受け流す。押し止めなかったのは力勝負では不利だからだろう。ベンノはそのまま体勢を戻し、盾を執拗に叩きつけてくる。
基本に忠実であるがゆえに厄介だ。盾は重く、迂闊に受け止めれば体勢を崩す。耐えたとしても、剣が傷むし最悪折れる。ある意味において、盾こそが最強の武器なのだ。
無論、盾自体の殺傷力は低いが、盾のプレスでバランスを崩したら、その隙に渾身の一撃を見舞われるだろう。かなりヤバい状況だ。
幾度盾を受け流したか。だがついに真っ向から受け止める形となり、バランスをくずした。その隙を逃さず右手の剣を真っ直ぐに突き出しくる。狙いは喉元。血の海に沈めると言う発言はハッタリではないようだ。
だが、それこそこちらの狙い通り。バランスの崩れた――ように見える体をそのまま倒し、その勢いを利用して足払いを仕掛ける。
「のわっ!?」
予想外だったのかつんのめるベンノ。すぐさま倒れた体を起こし、剣を叩きつけるが、ベンノは紙一重で回避。そのままごろごろと転がるように俺から離れ、安全地帯で起き上がった。
「貴様……! 下賤の分際でよくも貴き身分たるこの俺に無様な真似をさせてくれたな……!」
「おやおや。偉大なる家名と誇るべき祖先を持つ身でありながら下賤な平民相手にそのような醜態を晒すとは、少々鍛錬が足りないのではないですかな?」
「貴様……!」
嫌味たっぷりに挑発してやったところ、いい感じに激高してくれた。
激高そのままに剣を叩きつけてくるベンノ。だが、感情に振り回された攻撃など怖くもない。いなし、受け流し、カウンターを叩き込む。ベンノはかろうじて防いでいるが、それでも痣が増えていく。この勝負、貰った――!




