そのよん
本戦出場を祝って、今日の夕飯は豪華だった。
普段の黒パンとは違い出来立ての白いパン、塩を利かせた羊の香草包み焼。サラダもちゃんとあるし、スープには具が5種類もある!
……そこ。日本の感覚と一緒にするな。こっちではこれはごちそうなんだよ。
実際問題、気候は前世の日本に近く、四季がはっきりしているのだから、もっといろいろあってもいい気がするのだが、現実はこれだ。塩の供給量は十分足りてるようで、塩を節約するが故の薄味、というのをお目にかかったことはない。まあ、うちは曲がりなりにも親父が帝国騎士だから、給金は十分あるはずというのもあるが、下町の食堂でもそうだったしな。
一方で砂糖の類は存在しない。後味噌醤油、更には胡椒も。というか、存在する調味料は塩だけ。まあ、味噌や醤油は特殊だからおいておくとしても、砂糖――サトウキビの栽培がされていないのは不思議だ。物理的に存在していないのか、存在はしているがその糖分が知られていないのか……。後は存在してるけど見たことない、というのもあるか。
物語としてみるのであれば、この後この悲惨な食文化に嫌気を刺した俺が、独自のルートを開拓して日本から豊かな食文化を広める……というパターンもありそうだし、やれるならやりたいところだが、残念ながらそれは不可能だ。なにせ、俺サトウキビって名前は知ってるけどどんな植物か知らないし、こっちの世界じゃあっても名前違うだろうし、砂糖の精製方法も知らない。無論、栽培なんてできるわけがない。前世ではあって当然だったため、無い世界に持ち込むための知識などない。一事が万事そうなので、前世の知識を利用するには、1から開拓していく必要があるだろう。
「もっふもぐもぐ。あぐ、ん、うめぇ」
「お兄ちゃんったら、あわてて食べすぎ。もっとゆっくり食べていいのよ?」
「ははは、まあいいじゃないかアリス。ウィルが本戦に進んだ祝いだ。好きに食べさせてやりなさい」
前世とは比べ物にならないとはいえ、この世界の食事としては人生最上級だからか、手が止まらねえ。結局、その日は用意された食事の半分を一人で食うことになった。




