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てきとー転生英雄譚  作者: 腐れ紳士
きしのしょう
28/56

そのに

 予選当日。予選会場に早めについていた俺は受付を済ませ、ウォームアップをこなす。予定の5分前行動は日本人の美徳である。

 ……どうやら、受付のときのあの男はいないようだ。本選ならいざ知らず、予選でかちあったら本気で予選敗退の危機だったから、助かった。もちろんかちあったからと言って負ける気はないし、他の予選メンバーに強敵がいない保証もないのだが、分が悪い、と自覚している相手がいないのは精神的にかなり楽だよな。


 そろそろ時間なので、受付へと赴き貴重品預かりのサービスを利用する。実に近代的でありがたいが、実際のところこの手の大掛かりなイベントでもなければパクられるのが関の山だ。他国の貴賓も集まる大きな大会だからこそ治安に力が入る、ということだろう。


「ウィリアム・マイスター様ですね、かしこまりました。確かに発動体の指輪二つをお預かりいたします。こちら明細と証明の札となりますので無くさないでくださいませ。紛失した場合は預けた品の返還ができませんのでお気を付けください」

「はいわかりました」


 預けたのは発動体、と呼ばれる最も基本で安価な魔法の品(マジックアイテム)だ。魔法を行使する際に大きな助けとなってくれるもので、別になくても魔法が使えなくなるわけではないが、あるとないとで天地の差が出るため、まともな魔法使いなら必ず持っている。ちなみに安物なら子供でも3か月も貯金すれば買える。

 発動体には2種類あり、一つは短縮体と呼ばれるもので、これは魔法を発動するときに長々と唱える呪文(省略してるけど、俺も毎回唱えてるんだよ?)を10分の1にしてくれる、という優れものだ。単純に言えば準備時間が10分の1で済む。俺が普段使ってる身体能力強化も発動体なしでは10秒ほどの隙が生まれてしまうのに、こいつのおかげてほとんど一言で発動できるのだ。

 もう一方は、制御体と呼ばれるもので、こちらは発動する魔法の成功率や効果を上昇させてくれる。比率的にはおおよそ5割程度らしい。俺はこちらの発動体は持っていないので、詳しいことはよくわからないんだけどな。

 一般的には、研究者などは後者を、実戦で使う魔道舞台や傭兵などは前者を持つらしい。

 ちなみに魔法使い、といえば杖にローブというイメージがあるが、それは間違いではない。発動体の形状には指輪、腕輪、(スタッフ)短杖(ワンド)の4種類がある。何が違うかというと、実は、発動体の恩恵を受けられる魔法の数が違うのだ。

 というのも、発動体はそれ自身に呪文を刻み、それに対応する魔法を補助する、という仕組みになっているためだ。指輪で1つ、腕輪は3つ、短杖(ワンド)は5つで(スタッフ)は10個まで刻む余地がある。このため、当然魔法を主にするのであれば、いくつもの魔法を自由に使えるよう、杖を購入するというわけだ。

 あ、後ローブなのは、理由は不明だけど鎧の類を着て魔法を使うと、余分に魔力を消費するせいなんだとか。服やローブならそんなことはないらしいのだが、ローブはワンピースの服でもあるため生地裏の面積が広く、そこに魔法的に色々仕込んでるらしい。大掛かりな魔法円はスペース食うからね。


 え? なんでその重要な発動体を預けたか?

 この馬上試合(トーナメント)は騎士の大会と違って馬に乗らなくていいけど(馬に乗らないのに馬上試合という呼称はあれだけど、これは慣習によるものらしい)、魔法は禁止なんだよ。

 魔法がダメな理由だが、そもそもこの世界、魔法を忌避する傾向があるのだ。

 話は古く、5000年以上も昔にさかのぼる。

 かつて、魔法を得意とするエルフによる大陸支配の時代があった。

 この時代、魔法が使えなければヒトにあらず、という認識が当然のものとされており、魔法が使えない人間種や獣人種たちはエルフの奴隷だった。結局、聖パミラなる人物が旗頭となり反乱が起き、神から遣わされた勇者様の助力を得てこれに勝利した、とされている。

 その後人間も魔法の力を得るに至ったし、エルフも当時ほどの強大な力は持っていないのだが、5000年たってもその恐怖は消えないようで、魔法=危険でよくないもの、或いは力に溺れる下賤なものと思われているそうな。

 まあ実際にはそんな事気にしない奴の方が多いし、国も専門の術者を確保しているんだが、それでも法律上も慣習上も、魔法の力を理由に権力を得ることはできない、となっているのだ。結果、伝統ある貴族の血に魔法の素養はなく、誇りある強き騎士とは魔法を使わずに強いものを指し、危険で下賤な魔法使いたちが騎士を支援し、その輝かしい武勲の一端を担う、とされている。

 とまあ、そんなわけで、この大会でも魔法は禁止。発動体を持ったまま舞台に上がれば即失格だし、呪文を唱えているのを聞きとがめられても即失格なのであった。ま、どうせ強化くらいしか使えないし、素の状態での剣術もきちんと鍛えてるから行けるだろ、きっと。

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